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□ただそれを悟っても、
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あの時、オレと阿部はただアイツの顔を見て眉をゆがめていた。
休み時間、阿部が由梨に何かを伝えていたのも見ていた。
何かが変わろうとしてるかもしれないとも思った。
だけど、オレはそれに気付かない振りをして見て見ぬ振りをした。
一番行動しなきゃならない時に、オレはアイツラから逃げたんだ。
部活中も阿部は落ち着かない様子で、それを篠岡が心配そうに見つめていた。
そして、それは起こったんだ。
オレが少し目を離して、グラウンドに戻ってきたら篠岡が赤い目を隠しながら帰っていくところ。
少し遅れて水谷が息を切らしながらグラウンドに駆け込んで探していた。
多分、篠岡を。
帰ったことを監督に聞いて拳を作って下を睨みつけていた。
それからかなり遅れて阿部がグラウンドに戻っていて。
それを見つけた水谷が勢い良く阿部を殴った。
それを見て周りは慌ててふたりを抑えて距離を保った。
田島が殴った水谷を押さえて泉や巣山が落ち着かせようとしていて、阿部の方には三橋や栄口、沖が阿部を心配そうに声をかけていた。
オレは間に入ってふたりを見比べることしか出来ない。
西広は目を見開いていて、モモカンは慌てながらもその様子を見守っているようだった。
「…なんで、だよ…」
「「…」」
ポツリと呟かれた水谷の言葉に、オレと阿部は眉を顰めて下を向くばかり。
事情のわからないやつらは、ただ?マークを浮かべ続けるだけだった。
「…悪かった。…今日は帰る。」
「…オレも。明日からは戻すから…」
「……ああ。」
「…そうしな、ゆっくり頭を冷やすんだよ。」
モモカンからも許しを貰ったふたりは、ゆっくりとグラウンドから居なくなった。
オレは、由梨を思い浮かべて空を見上げて呟く。
「…泣いてん、だろう…な。」
その呟きは風にかき消されて、オレは両手を強く握り締めるだけだった。
ただそれを悟っても、
阿部が告白して、
篠岡が目撃して、
水谷が追付いて、
由梨が決めらず泣いて…
そこまで判ってるのに。
オレは、なんなんだ…畜生っ…
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