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自己嫌悪にさいなまれながら午後の授業を受け、そそくさと図書室に逃げ込んだ。

人として幸村精市にとった態度は、けして良くない。寧ろ駄目だ。

若返ってるとはいえ、私の中身は高校生だ。みっともなくて…

ぐるぐるといろんなことが回って司書室にも寄らずに一番奥の窓側のカウンター席に座る。

そのまま、おでこを机にくっ付けた。ひんやりと冷たい机が体温を奪う。

此処に来た目的は、ひとつだった。


――テニス部を見ること。


ジャッカル君に言ったように彼等を、まず彼等のテニスを見ようと思った。




『…馬鹿みたい。』




手伝ってくれって言われて拒否しといて、そのテニス部を見るなんて。

それでも、関わりたくなくても。彼等のテニスを見たいと思っていたのは事実だった。

くっつけていた額と机を離し、パンと頬を両手で挟むように叩いて頭を起こして窓の先を見る。



見て、思わず息を呑んだ。

瞳が彼等に引き寄せられて、釘付けになった。

王者を誇るために苦しい練習をやってる筈なのに、…なんて楽しそうにテニスをするんだろう。

私が、私たちが原作で見ていた彼等より小さい彼等は、その黄色いボールを必死に追い駆けていた。

口元を上げて、酷く純粋に楽しそうに。

手が震える。あの震えじゃない、うずうずしてるんだ。

私の中の一部の欲求が叫んでいる。


(…彼等を、描きたいっ…!)


時間が惜しい気持ちに急かされて、スケッチブックを開きざっと手を動かしていく。

鉛筆とスケッチブックの擦れる音だけが耳に響き、それに自分の気持ちが乗っていく。

思わず、口元が上がっていくのが自分で判る。

でもその描き上がった絵に、違う欲求が湧き上がっていく。

物足りないんだ、此処からは精々何をしてるかくらいしか判らなくて。

ひとりひとりの球の打ち方とか、その表情の変化とか動きとか。…嗚呼、




『…近くで、見たい…』




彼等のテニスをもう少し近くで。

純粋に思った。あんなに近づくのも嫌だったのに…

ふと、ジャッカル君がこちらを見上げて、見えるか不安だったが彼に小さく手を振る。

見上げた彼に釣られて隣の赤髪が振り返るのが見えて、慌てて頭を引っ込めた。


(ごめんなさい、もう少し待って…)


ジャッカル君に言ったように、私の中で何かが変わり始めているのかもしれなかった。

それがはっきり見えるまで、私に時間を下さい。









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