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□揺れる瞳が写す先
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あの日、わたしは泣いていることしか出来なくて。
一歩も動けずに彼と彼女とあの人を見ていることしか出来なくて。
ぐるぐるぐるぐる、授業中も休み時間もお昼も、部活中も考えていた。
みんながみんなぎこちなくて、どうすれば良いのかわからなかった。
何よりも、やっぱり阿部くんの事実がわたしにとって切なくて辛くて、苦しくて。
そんな時に手を伸ばして支えてくれたのが水谷君で、彼はわたしをいつでも見てた。
だからか少しずつ惹かれていって、苦しいのが嫌だったのも事実だったから彼の隣を選んだ。
それからは、時々思うこともあったけれど、隣にはいつも水谷君が居てくれてた。
だから、わたしは水谷君が好きだってしっかりと言えると思っていたのに。
わたしの中の思いは、わたしが思っているよりも遥かにずっと大きかった。
だって由梨ちゃんを見て駆け出した阿部くんを見て、一気に胸が苦しくなって。
由梨ちゃんに向ける阿部くんの笑顔は見たことが無いほどに優しくて。
その笑顔は、わたしがずっと望んでいたものだった。
今、それと同じ笑顔の水谷君はわたしの隣に居るのに胸は悲鳴をあげてて。
湧き上がってくる哀しみが形となる涙を必死に押さえるのに必死になった。
だってそうじゃない。
わたしは阿部くんからの、好きな人からの拒絶がこわくて逃げた。
彼女が想いを寄せていた水谷君の隣にはわたしは逃げ込んだ。
それなのにわたしが泣いたら、可笑しいもんね。
それは水谷君にも、由梨ちゃんにも失礼なことだってわかってるから。
熱を持ち揺れる瞳からそれを零さないようにしながらも、それでもしっかりと彼等を見ていた。
揺れる瞳が写す先
阿部君からは逃げたけど、
水谷君とは向き合っている自信はあった。
それは嘘じゃない。
だけど、それ以上にあの人は特別だった。
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