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『っ…、何か、買うんですか…?』
「うえっ、いや、そうだけどよぃ。」
逃げちゃ駄目だ、逃げないってもう、決めたじゃないか。
声が少し震えたけど、何とか彼に話し掛ける。
丸井さんは更に驚いたように目を丸くしながら
動揺を隠せてないまま返事をする。
お互い、不自然なくらい目線を泳がせながら何とか会話をしていた。
さ迷わせた目線を彼の手に向けると、購買に来たのに財布がない。言おうか言わないか迷って彼の目を見た。
『あ、のっ…何を買うんですか、』
「え…、あれとそれとそれだけど。」
丸井さんは戸惑いながら、菓子パンとチョコレート菓子と苺みるくを指差した。
どれもこれも甘いものばっかりで驚きを通り越して尊敬すらする。甘ったるくならないのだろうか。
言われた商品を手にしプラス惣菜パンとお茶を2本も会計に渡すと、丸井さんの戸惑った声が後ろから聞こえたが1500円でそれを買う。
ビニール袋を受け取ると中からお茶を1本取り出して、残りを彼に押し付けるように差し出す。
丸井さんは差し出された袋を見て、戸惑った表情のまま私を窺った。
「なん、だよぃ。」
『あげます…、たまにはジャッカルくんを、労ってあげて下さ、い…。』
多分、またジャッカルくんに奢って貰おうと思っていたのだろう。丸井さんは目を丸くしてからおずおずと差し出された袋を取った。
ちゃんと持ったことを確認して袋から手を離し、一歩離れる。
図々しい言葉だ、でも丸井さんは何も言わない。文句のひとつくらいは言われるかと思っていたのに少し驚く。
『…言い過ぎた、ごめんなさい。』
「…は?」
『嫌いって、言ったの…撤回します。私は、丸井さんは別に、嫌いじゃ、ない…です、』
気まずい雰囲気の上に、不安何より酷く恥ずかしいやらで目線が泳ぐ。
丸井さんの顔は見れなかった。
どんな目で、どんな顔で私を見ているのかが怖くて。でも逃げるのはしたくなくて、そんな葛藤、そんな矛盾。
その瞬間、ばっと手首を捕まれて驚いたが肩を震わせる暇さえなく走り出され引っ張られていく。
転びそうになりながらも足を前に前に出して、そっと見上げた先は赤い髪が揺れるだけ。
身長が決して高くない彼の手でもしっかりと私の手首に回される程大きくて、それでいて少し冷えた体温だった。
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