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『…テニス部に関わりたくない、そう思っていました。固定概念、先入観からです。』

「うん。」

『美術でジャッカルくんと友人になりました。ジャッカルくんが話してくれるテニスやテニス部はハードで滅茶苦茶な人達だと思いました。』

「うん。」

『けど、愚痴を溢しながらもテニスのことを話すジャッカルくんは楽しそうで嬉しそうでテニスが仲間が大好きなんだろうなって感じて。』




幸村さんは顔をこちらに向けてひとつひとつに相槌をうちながら、しっかりと話を聞いてくれている。

そんな親身な態度も相まって、ぽろぽろと口から言葉がするりと出ていった。




『そんなに打ち込めることがあるって良いなあって、どんなことしてるんだろうなって。…私には無いものだから。』

「うん。」

『遠くから眺めたら必死に黄色いボールを追う姿に、真剣な中で楽しそうに試合に挑むその姿に釘付けになった。練習は素人目でも圧倒されたし、気圧された。でも、一番はやっぱり憧憬だった。』

「うん。」

『一緒になって興奮して一緒になって緊張して一緒になって悔しがっちゃったりして。…私ね、テニス部のテニスが好きだよ。』




興味がなかったのは本当だ。

漫画だった時から、アニメ化した時からそうだった。

でも此処に来て、彼らを見て、私は彼らに惹かれていた。その姿勢に、その態度に、その姿に。

一生懸命だったあのこと同じように、一生懸命だったから。

幸村さんは驚いたというように息を飲み、深い青色をした目を大きくして丸くする。

ちらりと確認した彼の表情を見て、じわじわと恥ずかしいことを言ってしまったと認識した途端に、顔が熱くなっていく。

対して、幸村さんも私の顔を見て目線を泳がせたと思うと、くしゃりと今までと違う顔で笑った。




『!』

「ふふ、うん。ありがとう。俺達のプレイでそう思ってくれるなんて凄く嬉しい。それを伝えてくれて凄く嬉しい。」




ふわりと上品に笑う顔とはまた違った、全体で嬉しさを表すような笑顔。

見たことのない幸村さんの笑顔に、熱くなった顔は更に熱くなって目線を泳がせた。

幸村さんはその私の様子を見て、あははと小さく声をあげて笑った。




『わ、らわないで下さい…。』

「ごめん。俺も随分恥ずかしいこと言ったなって思っちゃって。…怒った?」

『怒ってはいない、ですけど。』




少し照れたようにしながら此方を覗き込んだ幸村さんの顔に、語尾が小さくなってしまって格好がつかない。

ならよかった、と笑う彼に私は敵わないなあと赤くなっているだろう顔で苦笑した。












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