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瞳を開けて目にした所は、車内だった。

いまいち理解できなくて瞬きを繰り返す。

でもどんなに瞬いてもそこは車内で、内心かなりパニック状態だった。




「お客さん、早くしてもらっていいかい?後ろがつかえてるから。」

『え…。』




いきなり聞こえてきた第三者の声に思わず狼狽える。

よく見ればそこはバスで私の番で止まっているみたいだった。

思わずすいませんと謝るが生憎お金がない。

死んで、神様に飛ばされたんだから財布なんてあるわけない。いや、生き返ってる事のほうが有り得ないんだけど。

流石に焦って意味もなくポケットに手を突っ込む。すると聞こえる、金属の擦れ合う音。

ゆっくり握った右手をそのままポケットから手を出して見つめながら開けば、それはお金。

助かった、と思いながらそれを払う。取り敢えずバスから降りようと一段進んだその時。




「ん、お客さん。十円足りないみたいだよ。」




悪魔の声が私を引き止めた。


(十円、足りない…!?)


慌てて右のポケットを探るがもう無い。左も探すけど、結果は同じく。

まずいまずいまずい…お金が死ぬほど欲しいなんて思ったことなかったけど今、本気で欲しいと思うのはしょうがないことだろう。




「十円、無いの?貸してあげようか?」

『え?』




優しい声に惹かれてそちらを見れば見たことのある顔、知ってる人…。

立海大付属男子テニス部部長にして主将、幸村精市。

彼はにこやかに微笑んだまま十円玉を私に差し出してくれていた。

どうしようと焦りながらも私の場合顔にこういう表情が出ない、…良いのか悪いのか。

少しの間の無言を肯定ととったのか耐えきれなくなったのか、急いでいたのか。(多分答えは3な気がする)

差し出していた十円玉を払い自分の代金も払って彼は私の横を通り過ぎていく。

ふと、我に返って先に行ってしまった彼を追い掛けて声をかける、彼は足を止めて振り返った。




「…何?」

『あの…あり、がとう。』




ちょっと緊張で声がどもってしまう。

だって目の前には普通絶対に逢うことなんて出来ない漫画のキャラクターがいて私は彼に話しているんだ。

有り得ない出来事ばかりで私の頭はかなりパンク状態だ、それでも。

ピンチを彼は救ってくれた。それが事実で私は助かったからお礼を言う。

それって当たり前で大切なことだと思うから。

彼はちょっとびっくりしたように目を丸くしてでもどういたしましてと笑いながら言ってくれた。

その笑顔に思わず見惚れてしまう。格好いいけどそれ以上に笑顔が綺麗だった。

彼はどんどん去っていって校門の先へと消えていった。


(!校、門…?)




『嘘…立海大付属…』




目の前は有名なあの学校がある、頭が悲鳴をあげている。でもこれは現実だ。

だって神様が私をこの世界に送り込んだ。神様とさえ私は出会って話してしまったんだから…。














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