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□いつか思い描いた、最悪の
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駆け出した由梨、すれ違った横顔に見えたのは涙。
小さく舌打ちをした。理由は水谷か…逃げ出した俺に向けてか。
足を動かして水谷を睨んで、あいつにとって重い言葉をかけて追い討ちをかけた。
それに水谷は目を見開いてあからさまに固まって、混乱動揺を隠せていなかった。
阿部は追いかけたそうに1歩踏み出して止まるその表情は迷っている。判らないんだ、崩壊の亀裂をいれた自分が追いかけていいのか。
篠岡のほうに目を向ければ、彼女ははらはらと涙を流しているだけだった。
それを一瞥してから足をひたすらに動かして走って由梨を追いかけて。
見つけたのは人影のないグラウンドの隅の木の後ろ。その背中は明らかに震えていて、嗚咽も耳に響く。
息も整ってないまま気にも留めずに、たその後ろ側から抱きしめた。
恋愛じゃない、それはお互いにわかってる。だけど、こいつが…由梨が泣いてるのは見たくない。
それは由梨が放っておけなくて、大切なやつだから。
その体勢のまま、振り返らずに彼女は口を動かす。
『…よくっ、わかった、ねっ。』
「長い付き合いだからな。…よかった、のか?」
『…大丈夫、だいっじょうぶっだ、よ。』
そんな風にして欲しいわけじゃない。そんな風に笑って欲しくない。
そんな風に無理して欲しい訳じゃないんだ。
抱きしめる力を強めて、声を出した。何故か、オレの声が少し震えてた。
「…大丈夫じゃない。大丈夫じゃないだろ…。オレの前でも強がるなよ…っ。」
『っ……、あずには適わないなっ…』
あず、そう呼んでオレの腕から出て向き合う。その目にはいっぱいに涙をためて。
その表情にオレまで切なくて悲しくて苦しくて。由梨はまた自虐的に笑って、涙がこぼれた。
その瞬間に由梨の笑顔は崩れて、オレに縋るように泣き崩れた。
『あず、あず、うわぁぁあああああん!』
「…由梨、泣きたいだけ泣いていいから…」
『あああああっ、もうっむりっだ、よおっ…すき、だったのっに…すきなのっにぃ…』
オレはただ由梨を抱きしめて、空を見上げることしかできなかった…
いつか思い描いた、最悪の
最悪の展開
こうなるとわかっていた
何処かでわかっていたけれど
結局、オレにはどうすることも出来なかったんだ。
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