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『…ありがと、う…ございまし、た…、』
「…別にいいナリ。」
やっと落ち着いたあやかは、銀色の詐欺師…こと仁王雅治と向き合いお礼を言っていた。
彼もまた気にした様子もなくケロリとまではいかないが普通にしていた。
いや、普通を装っていた。
彼女のあれは何なのか、何が原因なのか。聞きたいことは沢山彼の中を巡っていた。
けど、今目の前に居る彼女が異様に弱ってるように見え口に出せずに居た。
彼女もまた聴きたいことが合ったが、言いたい気分ではなかった。
「…お前さん、名前何て言うんじゃ?」
『………水瀬。』
「下まで教えるナリ。」
『……、あやか…水瀬あやかです…』
「あやかか。」
『…(…名字しか言わなかったんだから名字で読んで欲しいって判る筈なのに、何で名前で呼ぶんだろ…)』
できるだけポーカーフェイスを保ちながらもとりあえずここから離れたかった。
一刻も早くここから逃げ出したかった。
以前からの拒絶感と取り乱した羞恥と引かれてしまうんではないかと言う恐怖。
それが今、彼女の中に渦巻いていて。
兎に角彼から離れて逃げてしまいたかった。
が、それを彼がさせてくれるはずもなく。
「…今日の事は誰にも言わん。」
『…別に…。』
「言い触らしていいんか?俺は容赦ないぜよ?」
『……すみません、言わないで下さい。』
「じゃけぇ、俺に得が無いのは好かん。」
『…どうしろと言うんですか?』
「ひとつ、敬語を辞めんしゃい。ふたつ、またこれが合ったら俺を呼ぶぜよ。みっつ、歌を歌って欲しいんじゃ。」
『…みっつも…』
仁王はどうする?という目で見てくるがあやかに拒否権など無い。
ため息をつきながらもその条件を飲むしかなかった。
『わかりました。』
「敬語」
『わかった。ひとつめはいいでしょ。ふたつめは…どう呼べと?』
「携帯出しんしゃい。交換に決まってるぜよ。」
『…今持ってな「嘘はよくないじゃろ?」…はい。』
仕舞っていた制服のポケットから取り出して仁王に渡す。
簡単に使用されて帰ってきたことにはしっかりと彼の名前が登録されていた。
その画面を見て嬉しいような哀しいような、良くわからない感情を抱く。
『一番思った。みっつめの歌って何…』
「5日前かの?朝聞いたんじゃよ。あやかの歌声。」
『……拒否権ないし、別に良いけど。今からは無理。教室に戻りたい。』
「判ったぜよ。約束、破ったらいかんよ?」
『…了解しました。』
こうして、私水瀬あやかは仁王雅治に弱点を与えてしまったのだった。
(これから私の生活、大丈夫だろうか…)
物凄くこれからが不安になった。
(右腕の震え)
(それは1種の代償)
(弱み与え彼に逢い、私大丈夫?)