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「けどさ。」

『ん?』




走らせていた手を止めて口を開いたジャッカル君のほうに顔を向ける。

彼は此方を見ずに手を動かしながらゆっくりと言葉を紡ぐ。




「俺は水瀬に逢えて良かったって思う。愚痴も聞いてくれるし、それだけじゃない何か水瀬と居ると何か違うんだよな。」

『…』

「わり、ちゃんと伝えらんなくて。でもそいつ等も水瀬に逢えて良かったって思ってるんだと思う。それをお前に嫌がられてんのはちょっと辛い。」




そう言い切ると、そこで終わりなのか口はもう開かなかったジャッカル君。


(…逢えて良かった?…私はこの世界に本来なら居ないイレギュラーな存在なのに…?)


だけどジャッカル君は確かにそう思ってくれてるんだよね。

まだちゃんとそう向き合って、自分の考えをひっくり返すことは出来ない。

だけど、




『ジャッカル君。』

「……おう?」

『…テニス、楽しい?』

「ああ。…すげー楽しいぜ。」




こっちを見ながら言うジャッカル君の顔は、本当に楽しそうに生き生きしていた。

今回の作品はテーマ自由のスケッチ(勿論色塗りまで全て)。

書き出していた紙を見つめてから、出逢った全員を思い出してスケッチブックからその紙を破った。

ビリビリと響く音に周りの生徒も一瞬こっちを見て自分の作業に戻った。

ジャッカル君はその様子を見て驚いて手が止まっていた。




「…水瀬…?」

『…近づかない関わらない…そう決めてたけど…とりあえず見てみる。』

「…」

『君たちのテニス、見てみる、ね。』




遠くからになるだろうけど、とりあえず自分から見てみる。


そしたら何かが見えるかもしれない。
そしたら何かが変わるかもしれない。
そしたら何かが分かるかもしれない。


そう言ったら、ジャッカル君は少し嬉しそうにして「練習に一層身が入んな。」なんて言って笑って。

私もその笑顔につられて微笑んだ。










(一線引くこと)
(止めるかは判らない)
(向き合ってみることから)
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