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□下駄箱に招待状
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あたし達の関係は戻ることなく、数日が過ぎる。
登下校はひとりだった。だって、梓は部活があるから。
淋しくない辛くないかと言われればYESと答える。けど、依存しすぎないで居られるから安心もしている。
それでも、あずに依存してしまっているのはわかっていた。
水谷くんと千代が朝錬終わりに一緒にクラスに入ってくるのを見るのは、苦しかった。
ふたりで千代が作ったであろうお弁当を抱えて昼休みに別教室へ行くのを見るのは辛かった。
水谷くんが何かと千代と話して千代と笑っているのを見るのは、切なかった。
その度にあたしはあずに心配をかけて、気を使われて慰めてもらってしまって。
空元気を見せたら直ぐにばれて、逆に怒らせて悲しませる。
あずはあたしを笑顔にさせてくれるけど、あたしはあずの迷惑にしかなってないことは判ってた。
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朝、久々に朝錬休みだった梓と登校して靴を履き替える。
そのために靴箱を開けると二つ折りになった紙が中に置かれていた。
それを手にとって靴を入れ、ゆっくりと開くと知っている名前にドクンと心臓が鳴る。
【話がしたい。放課後、図書室で待ってる。 阿部】
どちらかと言うと達筆な感じの字体でそう書かれていた。
紙を持ったままのあたしに梓があたしの手元を覗き込んで手紙を読む。
すこし梓の顔が苦虫を噛み潰したように皺を寄せた。
「…阿部、か。」
『う、ん。』
「…行くのか?」
梓は少し心配そうに優しくあたしに聞く。
その答えにつまって黙ってから、小さく『…判らない、』と呟く。
どうしたらいいのか、行くべきなのか、行かないほうがいいのか。
梓はその呟きには反応しなかった。でもあたしが黙っているとゆっくりと呟く。
「由梨が決めねーと。…行くのか行かないのか。……今、阿部に会えるのか。」
『…、うん。』
あずの答えにゆっくりと頷いてもう一度その紙を見つめた。それから阿部の事を思い出す。
だからその紙を折りたたんで、しっかりと胸のポケットに仕舞った。
『あたし、阿部から逃げてる。』
「…ああ。」
『だか、ら…話さないと。…逃げるの、止める…ちゃんと、向き合わなきゃ……』
躊躇いながらも言葉にする。言わないと逃げてしまう気がしたから。
阿部はあたしと向き合うつもりだから、あたしはそれに答えないといけない。
あたしにも言わなきゃならないことがある。逃げたこともキチンと謝らないといけない。
…告白の返事も。
由梨の覚悟。それを聞いたあず。ぎゅうと握り締めた拳。それを見たあず。
彼は特に何も言うことなく、ポンポンと軽くあたしの頭を撫でた。
下駄箱に招待状
向き合うことは進むこと
この手紙は阿部の勇気の証だから
あたしには阿部に会う責任がある
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