□溝は只々広がるだけ
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気がつけば翌朝で、ベットの上で上半身を起こすといつも見えていた髪が見えなくて代わりに頭が軽かった。

仕度を終えて鞄を手にリビングに向うと案の定両親は目を丸くして驚いていた。

何があったんだと聞いてくるふたりに力なく微笑んで口を開かずに居たら母が困ったように笑った。

こっちにいらっしゃい、と手招きされて無様だったおかっぱを手入れしてくれて。

その優しい手に泣きそうになったけど、ぐっと堪えてお礼だけを呟いて。そのままいつも通り学校へ向う。

野球部は朝錬で、教室にはあの人も彼女も彼も梓も居なかった。

クラスメイトはばっさりと切られた髪に驚いていたようだが優しい笑顔で似合っているよ。と声をかけてくれた。

こんなことになっちゃってみんなにも迷惑かけてるな、とふと思ったら、がらりと扉が開いて。

野球部が朝錬を終えて教室に入ってきた。

ゆっくりと扉の方に目を向けると4人ともあたしを見て吃驚していた。




「、」「由梨!お前、その髪!」

「「「!」」」




梓が動こうとしたより速く、阿部が駆け足であたしに向って来た。

後ろで3人が、クラスも驚いて目を丸くしていた。それに何ともいえない気持ちになりながら阿部を見た。

阿部はあたしの目の前まで来ると、ごく自然に手を伸ばして肩に付かないまで短くなった髪に指を絡めた。

それにあたしまで吃驚して、びくっと反応してからゆっくりと阿部を見上げた。




『あ…あべ…?』

「何?」

『///、…似合う、かな…?』

「ああ、似合ってる。…可愛いよ。

『っ///、ばか…、ありがと。』




可愛いのくだりは本当に小さい声であたしにしか聞こえない声量だった。



阿部が見た事の無いような優しい顔であたしを真っ直ぐに見つめるから。

阿部が聞いた事の無いような優しい声で、聞いた事無い言葉を話すから。

そんな阿部に勝てなくて、顔が熱をもっていく。



それでも、それが阿部の優しさだって判っているから、あたしも真正面からお礼を言える。

後ろの3人を見れば、千代は何処か傷ついたかのような表情で見てられなくて。

水谷くんは、何か苛立っているようで苦しそうで、もっと見ていられなかった。

梓はふっと息を吐いてから何も変わらない態度であたしに近づいて挨拶を交わした。






溝は只々広がるだけ

阿部とはきっと間違いのまま近づいて、

水谷くんと千代とはぐんと遠のいた。



捻じれた仲は簡単にナオラナイ








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