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□むしゃくしゃするのは、
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朝錬が終わって教室に入ると目に入ったのは彼女だった。
彼女もまたこっちを見ていて、目があったような気がして直ぐに逸らした。
だけど、彼女に何かの違和感を感じて目線を戻そうとしたら阿部が横をすり抜けて彼女の元に駆け寄っていった。
それに吃驚して目を丸くして目を向ければ、その違和感に気付いた。
彼女の長かった髪はバッサリと切られて肩に付かないほどまでに短くなっていたから。
最初に思ったことは彼女の、瀬川の髪が切られたことに対しての残念だと思う気持ちだった。
いつかの記憶が蘇って、彼女の髪を褒めてるオレ。あれは嘘じゃない本心だった。
なんで今、そんなこと思い出しているんだと直ぐに自分で吃驚して。
取り払うように軽く頭を振って、もう一度彼女を見れば、阿部が極自然に彼女の髪へと指を滑り込ませててさらに驚いた。
なによりその見た事の無い表情…、瀬川を本当に愛しむような優しい表情にも。
はっとして隣のしのーかを見れば、その表情は悲哀の影が満ちていて。
どうしようもなくて、ゆっくりとしのーかの手を握った。
しのーかは驚いたようにこっちを見てから堪えるようにオレの手を握って。
チャイムが鳴ってぱっと手を放してお互いに席へと向う。
ふと、彼女の席へともう一度目を向ければ久しぶりに元気そうに笑う彼女と阿部と花井。
あれ以来オレは瀬川をあからさまに避けて無視して関わりを断った。
彼女が悪いわけじゃないのは判っていたけど、どうやって接すれば良いのかわからなくて。
オレは一方的に瀬川を傷付けてきたのにそれを今更どうしたら良いのか判らなくて。
そうして瀬川から逃げた。それがまた彼女を傷付けてることにも気付かずに。
今でもオレの中でぐるぐるぐるぐる、渦巻いているんだ。
ずっと、ずっと、
オレを取り巻いて忘れさせてくれないで居るんだ。
むしゃくしゃするのは、
しのーかはまだ阿部を見てるから?
それとも…
彼女への罪悪感が残ってるから…?
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