□小さな変化の兆し
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阿部と付き合ってるって言って良いのか、中途半端な関係のまま1週間が過ぎた。

阿部とは笑っちゃうくらい一緒にいた。

水谷くんを、千代を見ないようにするために避けた。

改めて弱いなって思うけど、いつも隣には阿部が居てくれた。

阿部はいつもあたしを救ってくれていた。




『阿部、』

「あ?」

『…ありがと。』




唐突に言ったから、驚いた表情の阿部。

なかなかそんな表情見せないから、何だか可笑しくて笑う。

阿部は冗談っぽく怒って、あたしの頬を引っ張る。




「なーに笑ってんだ?あ?」

『ひょ、いひゃい!(ちょ、いたい!)』

「ぷっ。間抜け面。」

『しょうしてるにょ、あへだかりゃ!(そうしてるの、阿部だから!)』




引っ張られたまま向かい合って、軽く涙目で阿部を睨む。

阿部はひとしきり笑ったあと、ふっと真剣で切なそうな顔になる。




「…お礼なんか一々言うな。俺は傷心の由梨に付け入ろうとしてるだけだ。」

『あ、へ…』

「俺は偽善者なんだよ。」




そう言ってぱっと頬から手を離して、あたしの頭の上にポンと手を置いた。

阿部を見上げたら切なそうな顔で、目が合えば手に力を入れられ下を向かされた。


(…そんなこと、言わないで、)


本当に付け込むだけだったら、そんなに悲しい顔しないじゃん。

あたし、本当に阿部に助けられてるんだよ?

あんなに水谷くんを思って苦しんでたのに、考える時間が減ってるんだよ。

それは阿部がいつも傍にいてくれて、あたしが阿部を見てるからなんだよ。

あたしは、何だか寂しくなって阿部に抱き付いた。

阿部を苦しめるだけかもしれない、だけどあたしにはコレしか思いつかない。

阿部は驚いたようだったけど、ゆっくりと阿部の腕があたしに回るのが判る。




「…お礼より言ってほしい言葉が、あんだよ…」

『何?』

「……  、」

『ん?』

「…隆也、って呼べ…」




それは今、あたしが呼んでいいのか、悪いのかなんて判らない。

どっち転んで、これからどうなるかなんて、判らない…

だけどね、




『…た、かや…。…隆也。』

「っ…、由梨…」




あたしね、阿部のこと、隆也って呼びたいって思ったんだよ。

本当に馬鹿みたいだけど、ね…

あたしのなかで、隆也が大きくなっていくのが判るんだよ…





小さな変化の兆し

これがどういうことなのか、
まだ、怖くて答えが出せないんだ


…ごめん、ね…隆也…









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