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□顔を上げた先、君だけ
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Ren.M side
あの子が阿部くんが好きな子。
さっきまで隣に居た彼女。酷く後悔していた彼女。
オレの言葉はあの子に届いたのかな。…届いてたらいい、な。
「三橋。」
「え、あ…ごめ…な、何?い、泉君?」
少しいつもより不機嫌そうに泉君がオレを呼ぶ。
何かしちゃったかな、とおどおどするとそれに気付いて、「お前じゃねーよ」と言った。
「…お、お前じゃ?じゃ、じゃあ…」
「さっきの奴。花井の幼馴染だか阿部の彼女だか水谷を好きな奴だかしらねーけど。あんな風になったのアイツのせいだろ。俺は好かない。」
きっぱりと言い切った、泉君。
そうじゃない。そう言いたいけど、言って彼は嫌な気持ちにならないかな。
いろんな想いがグチャグチャして目を泳がせて、小さく声が漏れる。
それに泉君が気付いて、「何だよ」と呟く。うっと言葉を詰まらすけど、泉君は多分怒らない…と信じる。
「あ、のこも…つ、辛そう…だった…」
「そりゃ、振られて好きな奴が他の奴と付き合い出せばキツイんじゃね?」
「ち、ちが…そーじゃ、な、くてっ…野球部に、迷惑、かけたことっ、最初に、あ、謝ってっくれた…花井君、の、幼馴染、だし…こーなるの、望んで、なかった…と、思う…」
オレの言葉に泉君は目を丸くした。
まずい事を言ったかと、必死に謝ると「そーじゃない」と言って首を振った。
「三橋がアイツをそんなに庇うと思わなくてな。ま、確かに最初に動いたの阿部で、次は水谷らしいし。俺も言いすぎたよ。」
「う…うん。」
「ま、この話はいーから。速く戻ろーぜ。多分、阿部もモモカンも怒ってるぞ。」
「う…、がんば、る…」
「おー、がんばれ」と軽く背中を叩かれてグラウンドに戻る。
そっとあのこのいる教室を見たら、やっぱり阿部くんを見つめていた。
(…阿部、くんも、あのこも…水谷くんも、篠岡さんも…みんな、元に戻れると、いい、な…)
グラウンドに入った瞬間阿部くんに見つかってグリグリされて監督にもがっつり怒られながら、そう思った。
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