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□本当に、好きでした。
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『水谷くんはもう、覚えてないかもしれないけど。高校受験で水谷くん、あたしのひとつ隣だった。受験はクラスで分けられてて梓と離れててひとりで吃驚するくらい緊張してたんだ。』
「…」
『そんな時にね、水谷くん。ガチガチになってたあたしに声掛けてくれたんだよ。「緊張してる?オレも。でも、一緒に頑張ろうね。」って。』
「!…あ…」
『あたし、その時の水谷くんの笑顔で緊張解けたんだ。知らない、しかも同じ受験生で言うならばライバルなのにそうやって優しく言ってくれた。あたし、その時から多分惹かれてた。』
目を泳がせて、下を見つめたままと待った水谷くんに淡々と昔話をする。
強張った横顔に淋しさを覚えたけれど、彼ははっとこっちを見つめた。
ばちりと目が合ったが、あたしも水谷くんも、今度は視線を外さなかった。
「あ、のこ…瀬川、だったんだ…」
『!…うん。』
無意識かもしれないけど、水谷くんは今、ひたすらに呼ばなかったあたしの苗字を言った。
たったそれだけなのに、間にあった壁が少しだけでも無くなったように感じて安心する。
ふっと息を吐いて水谷くんを見る。彼の身体はいつの間にか向かい合うようになっていた。
「あのさっ『言わないで。』!」
『あたし、もう大丈夫だから。元に戻れないのは淋しいけど、心から言える。…千代との交際。おめでとう、水谷くん。随分かかったけど…でも、良かったね。』
「!…っ、瀬川…」
『…幸せになってね。』
言いかける水谷くんの言葉を遮る。どうか言わせて、言い切らせて。
何を言うか聞きたくない。恋愛じゃなくなっても君は大切な人だから、拒絶されるのは怖いんだ。
酷く自分勝手だけど、お願い。
『何度も言うなって話だけど。けじめだから、エゴイズムに付き合って…』
「っ…」
『水谷文貴がずっと好きでした。…千代泣かせたら、張っ倒すからね!』
にっとすっきりとした笑顔でそう心から言える。吹っ切れたよ、水谷くん。
自己満足に付き合ってくれてありがとう。
あたしに恋の苦しさと我慢を教えてくれてありがとう。
本当に、好きでした。
間違いなく君は、
あたしの本当の初恋でした。
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