□最後までキミは笑ってた
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どうすれば良いか判らなくて、無視し続けたら話しかけてこなくなった彼女。

いつも花井か阿部を、追い駆けるように付いて回っていた。

それに胸に何かがつっかえて。たぶん、それは罪悪感で。

更に、どうすればいいのか…全く判らなくなった。

多分、判らなくなったんじゃなくて、考えない様にしていただけだった。

でも、いつもどこかに罪悪感があって、どうしようもなくなって彼女を呼び出した。

とても驚いていたようだったけど、ふっと表情を柔らかくして、彼女も同じように話があるといった。




『…水谷くんが、好きでした。』

「!」

『…あの時はいい逃げみたいに言い放っちゃったから。ちゃんとこれだけは伝えたかった。』




空き教室に入ってふたりきりになる。

どうしても顔が見れなくて、どんな顔で向き合えば良いのか判らなくて、横向きに近いように斜めに立つ。

でも何を言えばいいかも判らなくて黙っているうちに彼女はゆっくりと、はっきり話し始めた。




『そんな時にね、水谷くん。ガチガチになってたあたしに声掛けてくれたんだよ。「緊張してる?オレも。でも、一緒に頑張ろうね。」って。』

「!…あ…」

『あたし、その時の水谷くんの笑顔で緊張解けたんだ。知らない、しかも同じ受験生で言うならばライバルなのにそうやって優しく言ってくれた。あたし、その時から多分惹かれてた。』




下を向いていた顔を思わず上げて瀬川を見つめてしまう。

でも合った目は思っていたより嫌な気がしなくてそのまま見る。お互いに逸らさない。

そのまま声が漏れるようにして紡がれる。




「あ、のこ…瀬川、だったんだ…」

『!…うん。』




瀬川は少し驚いたように反応してから、少しだけ嬉しそうにする。

その表情にオレは今までのことを謝ろうと、口を開いたら少し強く声をかぶされる。

それに彼女を見ると困ったように笑っていて、口を閉じるしか出来なかった。




『あたし、もう大丈夫だから。元に戻れないのは淋しいけど、心から言える。…千代との交際。おめでとう、水谷くん。随分かかったけど…でも、良かったね。』

「!…っ、瀬川…」

『…幸せになってね。』




はっと息を呑む。まだ昔というには最近過ぎる彼女の取り乱した涙を覚えているのに。

彼女はそうはっきりと言い切る。




『何度も言うなって話だけど。けじめだから、エゴイズムに付き合って…』

「っ…」

『水谷文貴がずっと好きでした。…千代泣かせたら、張っ倒すからね!』




彼女は酷く綺麗に笑う。

何処かすっきりしたように笑うから。

すーっと心の中で燻っていた罪悪感が、無くなっていくのが判った。

オレは笑ってからこの教室を出て行く瀬川を、何も言わずに…何も言えずに黙って見送った。





最後までキミは笑ってた

オレの話を聞いていた時や、オレといた時はいつだって

ずっと笑顔で居た、瀬川。



どの時よりも、ずっと

彼女は晴れやかに笑っていた。










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