□待ち続けた、その一言
1ページ/1ページ





ぼーっと屋上で空を見る。

瞳一杯に、より一層青く色づく夏空。

はあ、と溜息混じりに息を吐く。今頃、由梨は水谷と会っている。

それが向き合う事で良いことだってーのに、良く思えない自分がいる。




「……だっせー…」




自虐的に笑って俯く、と同時に勢い良く屋上のドアが開かれた音がした。

それに惹かれるように振り返ると、息を切らせてノブに手を掛けた由梨。

目が合うと、彼女は何かを言おうとしたが、思っていたより息がきれていたのか、口から漏れたのは息。

片方の手を胸に持っていき、肩で大きく呼吸をする。




「…落ち着けってーの。俺は逃げたりしねーから。」

『っ…コクン』




苦笑して傍によって、由梨の頭の上に手を置く。

息を整えながら目線を上げる彼女と目を合わせて、数回ぽんぽんと撫でる。

走った後だったからか少し頬を染め、目線を下げながら大人しく小さく頷いた。




「…」

『…』




息を整える彼女の息遣いだけが、ふたりの間を繋いでいる。

水谷とのことを聞きたかった、でも聞きたくなかった。

結局何も言えず、夏風が短くなった由梨の髪をゆらりと揺らす。




『…隆也、向こう…向いて、て…』

「は?………」




俯いたまま、それだけ言う由梨。前髪が邪魔でその目は、表情がわからない。

それでも、言われたように彼女に背中を見せるようにして立つ。

そっと、その背中に彼女の手が触れたのが判る。




『…水谷くんに、告白して…、』

「!〜〜っ」

『…きっぱり、振られてきた…』




ばっと振り返ろうとして、『ダメ』という彼女の言葉に留まる。

もう一度はっきりと『ダメ』と言って俺のシャツを握る由梨に、前を向き直す。




『隆也はあたしが笑ってる時も泣いてる時も最低な時も一緒にいてくれた…』

「…最低とか、言うな。」

『…あたし、隆也が居ないと…駄目、かも…』




その呟きに近い言葉に背を向けたまま、大きく目を見開く。

ぎゅうと彼女に握られたシャツが、引っ張られてるのが判る。




『……好き。…隆也が…す、!』




今度こそ、振り返って由梨を抱きしめる。

ただ俺の腕の中に押し込めるように強く抱きしめた。





待ち続けた、その一言

俺が望み、俺が求め、
俺がずっと聞きたかった

ただその二文字

由梨の俺だけの気持ち









[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ