□あなたが一番大好きです。
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水谷くんと話した教室を出ると少し離れた廊下の壁にもたれて立つ、梓。

近づくと梓は何も言わずにポンとあたしの頭に手を置くと、人差し指を上に向けた。

それに目を丸くしてから、梓にはやっぱり敵わないと思う。

コクリと頷いて梓の横を通り過ぎる。でも、数歩歩いて振り返る。




『梓…、ありがと、大好き!』




にこっと笑って向き直る。全部判ってる梓には感謝しきれない。

「それを言うのはオレじゃないだろ」苦笑気味に、でも嬉しそうに梓が言ったのを聞きながら歩き出す。

廊下を歩いていた足が早歩きになって、階段を一段ずつ上がる。

そのうちに一段飛ばしになって、走るように階段を駆け上がって屋上のドアノブを捻った。

勢い良く開いたドアは大きめの音を響かせ、眩しい夏空の先に隆也の背中。

音が聞こえたのか、ゆっくりと振り返った隆也の目が合う。

隆也って呼びたくて口を開いても、漏れたのは荒い息だった。

いつの間にか動いていた足に体力が追い付かなくて、胸を握って息が苦しく肩で息をする。




「…落ち着けってーの。俺は逃げたりしねーから。」

『っ…コクン』




ゆっくり近づいて頭を撫でられる。見上げた先の隆也が、優しい笑顔であたしを見るから。

ドクンと胸が高鳴って、顔が熱い。その笑顔で見られるのが恥ずかしくて見れなくて、目線を下げて頷く。

認めてしまえば心は吃驚するくらい正直で、ドクンドクンと大きく鼓動を打つ。

あたしの息を整える息遣いの音がふたりと繋ぎ、夏風が包む。

言いたいことがあるのに、言葉にならなくて、目が見れなくて。




『…隆也、向こう…向いて、て…』

「は?………」




俯いたまま、一方的にそういう。前髪が目に掛かり隆也の顔は見えない。

でも、ゆっくりと隆也があたしに背を向けて立つ。

顔を上げてその隆也の背中を見る。大きな背中にそっと手を伸ばして触れる。

ぎゅうと胸にもっていった手で服を握って、震えないように口を開く。




『…水谷くんに、告白して…、』

「!〜〜っ」

『…きっぱり、振られてきた…』




ピクッと隆也が反応して、振り返ろうとしたのを『ダメ』と拒否する。

今振り返られたら、顔が真っ赤なのがばれてしまうから。こんなに胸が一杯なのを知られてしまう。

触れていた手が隆也のシャツを握り、もう一度『ダメ』といえば、隆也は元の様に背中を向けたままに向き直る。

言いたいことが一杯あるんだ。伝えたくて、隆也の背中を見つめる。




『隆也はあたしが笑ってる時も泣いてる時も最低な時も一緒にいてくれた…』

「…最低とか、言うな。」




いつだって、隆也はあたしばかりで。

隆也の掌がぎゅうと握られた。そう思ってくれてありがとう、頬が緩む。

いつだって、隆也があたしの中にいた。




『…あたし、隆也が居ないと…駄目、かも…』




ポツリと口から零れるように、呟くように、そう言う。


涙を止めてくれたのも隆也。

笑顔にしてくれたのも、隆也。


――あたしの胸を、今こんなに一杯にしてるのも…全部、隆也。










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