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いつか来ると判っていた。

だから不安で変な緊張していて、毎日が変に一杯一杯だった。


目の前には何回目かの【神の子】、幸村精市。


ドクドクと心臓が煩い。

唯一の救いは今が昼休みで、この場に他の人が居ない事くらいだろう。

目の前に現れた彼は真っ直ぐに私を見ているのが、判った。

対して私は彼の手前斜め下に目線を落とし、合わせることなく寧ろ態と逸らしていた。

見ないんじゃない…、私は、見れないんだ…。




「この間は、ありがとう。」




口を開いたのは勿論彼からで、目線を上げることなくそれに『いえ。』と返す。

言いたいことは頭の中に一杯廻っている。

10円を貸してくれた事のお礼とか、私に興味を持った事も、私を接触を図った事も。

でも何も口からは言葉として飛び出そうとはしない。

きっと困ったように眉を下げているだろう彼に、申し訳がなくなってくる。


(それでも、今。…、今の私は…、)


彼に見えないところで、ギュッと堅く拳を握った。

それから少し間が開いて、それでも自分を見ない私に痺れを切らした彼が、また口を開く。




「実は、俺。君にお願いがあるんだ。」




ああ、この先は駄目だと。本能が危険を、警報を鳴らす。

この言葉の続きは、駄目なんだ。


(だって、私は…)


何も反応しない私に、彼は続けて口を動かす。




「良かったら、俺たちのマっ…」

『ごめんなさい。』




目線を逸らしたまま、大きく頭を下げた。

…やっぱり、駄目だった。


(どちらにしても今の私には、それに答えられない…)


彼の目を見ることは出来ない。…私は弱虫だ。

もう、そこには居られなくて、お弁当を抱えて深く頭を下げてから逃げるように走り出す。




「待ってっ…!」




後ろから彼の声は確かに耳に響いたけど、足は止まる様子はなかった。

彼を置いていくように走った。

それでもただの帰宅部に男子テニス部レギュラーが追い付けないはずが無い。

追い駆けられたなら勝てるはずなど無かった。

でも、優しい彼は追い駆けてくる事は無かった。




『…ごめんな、さい…』




校舎の壁に寄りかかって頭をつけたまま、顔を伏せて呟くように声にした。

君たちをまだ見てないんだよ。

私はまだ、彼等を“見れてない”んだよ…

そんな私が、今君たちをサポート出来るはず無いんだ…。

はっ、と短く息を吐いてその場からまた逃げるようにして離れた。

それでも胸は痛かった。











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