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彼らの姿が見えなくなるまで見送って、俯きながら玄関のドアに手をかけて家に入った。

後ろ手でドアを閉めて、揃えることもなく靴を脱いで家の中にあがる。

壁に手を添えながらフラフラと覚束無い足取りで寝室に足を向ける。

そのまま肩にかけていたバックを少し乱暴に落とす。

ベットに近づきながらスケッチブックを立てかけるように離すと、ベットに倒れこむ。




『…っ。』




と同時に見計らったように携帯が鳴る。

顔から倒れてうつ伏せのまま、携帯を取り出して通話を開始する。

名前を見なくても、相手は判った。




「…どうやったん?」




さっきまでの事を見ていたのか、どうかは判らない。

懐かしいような焔の関西弁に安心して、目の前が滲んでいく。

ごろんと身体を捻って仰向けになると、感情の雫が目じりを伝って零れていく。

溢れるように流れていく涙に、左腕をあげて顔を覆った。




『…生きて、いるんだよね…』




声が上ずり掠れるように呟いた。

焔は答えない。涙は枯れることを知らないように流れ続ける。


私が彼らを避けていた、その理由。




『キャラクターって、見てたんだよ…私。』




漫画の中のキャラとして見ていた。だから接触することを極端に避けた。

私はまだこの世界を少しだって受け入れられていなかったんだ。

確かにあの世界で漫画として見ていた彼らは今、私の目の前にちゃんと存在している。


ちゃんと、“生きて”いる。


私と同じように感情を持っていて、笑って泣いて怒って苦しんで。

運動すれば汗をかき、怪我もして血を流すし、病気にだって罹る。




『私と同じように、生きてる…』




黙っていた彼は「そやね。」とポツリと答えた。

携帯の向こうで焔はどんな顔をしているのか、私には判らない。


ああ、なんて馬鹿だったんだろう。なんて…最低だったんだろう…っ…。

私が傷付くのと同じように、彼らだって傷付くのに。どれだけ私は傷つけた…?


泣き続ける私に、焔がそっと口を開く。




「明日から、どうするんや。」

『…どう、する……。』




その言葉にぐっと唇を噛み締めた。

私に何が出来るだろうか。認識を変えただけの私に、何が。

わからない。

ただ自分が可愛くて、自己防衛に逃げ込んで自分勝手に彼らを傷つけたのに。










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