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昨日は多くのことがありすぎて、濃すぎる一日だった。
1日にあれだけのテニス部に会ったのも初めてで、その内容も初めてだった。
それでも、放課後決めたことはもう覆さない。
美術室に向かうと、そこにはもうジャッカル君が席に着いていた。
その背中を見つめて、足が止まる。
昼休み、少なくともあたしは彼を傷つけた。
彼に言ったのに逃げて、酷い言葉を彼のパートナーにぶつけた。
それは向こうが先に言ったからといって、私が言っていい言葉じゃなかった。
私を嫌っただろうか。嫌われて、しまっただろうか。
無性に怖くて逃げ出したくなったけど、そんなことが出来るはずもなくて、自業自得の結果だ。
ぐっと唇をかんで、変わらず彼の隣の席に荷物を置いて椅子に座る。
それにジャッカル君が反応して、ゆっくりとこちらを見たのが判る。
はっと息を吐いてから、同じようにジャッカル君の方を向きなおす。
ジャッカル君の顔は様子を伺うように少し眉を下げながらもいつもと変わらない。
合ったジャッカル君の瞳の中の私も、彼と同じように眉を下げて酷く心配そうに顔色を伺っている表情をしていて、ふっと頬が緩んだ。
ジャッカル君もそのことに気付いたのか、同じタイミングで頬を緩めて優しく微笑んだ。
それを見たら酷く安心して、ジャッカル君にいつもと変わらない笑顔で笑ったら、彼も変わらない優しい笑顔。
『おはよう、ジャッカル君。』
「はよ。」
お互いにビクビクしていたのがアホらしく思えちゃって、お互いに笑い合う。
いつもと同じ挨拶で、お互いに怒ってなんていない。嫌ってなんていないことがわかる。
それだけ判れば、良い。それだけでも良かった。
思った以上に私の中でのジャッカル君の存在は大きくなっていて、気付かないものだ。
それでも、あの時傷つけてしまったのは明白の事実だから。
『「あの(さ/ね)?え?」』
もろに被ったタイミングと言葉に、一緒に目を丸くして見つめ合う。
でもそのことが可笑しくなってきて、耐え切れずに口から笑い声が漏れる。
その声に釣られたようにジャッカル君も顔をくしゃっと緩ませて声を出して笑う。
ひとしきり笑うと、周りの目がコッチを見ているのが判って、慌てて口に手をやって止める。
その状態でジャッカル君と目があって、今度は声を出さずに微笑みあった。
『はー、笑ったあ。』
「たく、どんな漫画みたいなタイミングだよ。声が被るとかさ。」
『ふふ、だよね。こんなに笑ったの、久しぶりかも。』
「確かに水瀬がそこまで爆笑してるの初めてみた。」
もう、ジャッカル君との間にはあの嫌な雰囲気はなくて変わらない空気がそこにある。
そのことに酷く喜んでいる自分がいて、現金な奴だと自分で思う。
少し笑っていると視線に気付いて、ジャッカル君を見て首をかしげた。
『なに?』
「何を言おうと思った?先にいいぜ。」
『え、でも…』
「ていうか、多分おんなじことだと思う。」
『…うん、私もそう思う。』
ジャッカル君が眉を下げながらも、笑いながら言った。
その顔は私と同じで、同じタイミングに同じ事を言おうと思っていたなんて。
つくづくジャッカル君とは息が合うって言うか、居心地がいい。
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