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「今日は委員会だから、向こうで食べるね。」

『うん。わかった。』




私のお昼のとり方は基本的に3パターンだ。

亜美とお昼を共にするか、図書司書室でなっちゃんと食べるか、ひとりで弁当にする。

今日はなっちゃんは昼会議でおらず、亜美は委員会だということだった。

久々にひとりか、と思うのと女子がざわつくのはほぼ同時。




「水瀬ー、呼んでるぞ。」

『え?』




呼ばれたほうを見れば、そこに立っていたのは銀髪を揺らす男子生徒。


(…だから、か。)


にやりと彼は笑って、業とらしく且ついやらしく手招いていた。

それに小さくため息をつき、周りの反応に眉を寄せながら亜美に一言断って彼に近づく。




『女子からの目が痛いんだけど、仁王くん?』

「ほーか?いつもと変わらんぜよ。」




嫌味をひとつこぼしても、けろりとした様子で冗談を零してみせる仁王雅治。

その態度に眉を潜めて不愉快を顔で示すと、彼はやれやれと眉を下げる。




「俺の彼女になった日には大変じゃよ?」

『ならないし。』

「…即答は傷つくぜよ。」

『…少なくとも今は考えた事もない。』




言い方を変えると、少しだけ頬を緩めて微笑む仁王くん。

会話をする毎に女子たちからの目線はきつくなり、ささやき声は増していく。

少ししゃべった程度でこの状況となると、流石に行き過ぎの対応に違和感を抱きつつ仁王くんを見上げなおす。




『で、何の用件?』

「教科書借りに来ただけじゃ。」

『…よく言う。どうせ置き勉でしょ。建前はいいから本題だけにして。女子の嫉妬は怖いんだからね。』




ちくちくと刺さる視線を背中にひしひしと感じつつ、半ば睨み付けるように彼を見る。

それに仁王くんは参った、というようにおちゃらけながら肩をすくめるジェスチャーをする。




「今日昼あの場所に来んしゃい。」

『はい?』

「弁当持って集合じゃからな。」

『な。』

「あと…、本当に何かあったなら言いんしゃい。隠してひとりで抱え込むんは無しぜよ。」




ふと真剣な声に変えながら、ぽんぽんと私の頭に手を置いて軽く上下させる。

そして用件をきっぱりと言うと、建前の教科書すら持っていかず後ろでに手を振りながら自分の教室に戻っていく。

拒否の言葉を待たずに、さらっと言い逃げをしていった彼の背中を見続けることしか出来ない。

あの場所とは、この間の教室のことだろう。もうひとつため息をついて、尚ざわつく教室に戻り席について亜美を見る。

亜美はどこか心配や困惑などの、様々な色を顔に出していた。

その顔に首を傾げつつ亜美の名を呼ぶと、はっとしたように目を開いたあと、戸惑い気味に言葉にした。


(…気をつけて、か。)


彼女はそれだけ言うと、前を向いてしまった。

その態度には何か引っかかるのに、それが何か。までは判らなかった。












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