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そっと、立ち寄ったのはあの日、幸村さんと葛西先輩に助けられたあの花壇。
掃除したものの、踏みつけられ蹴り飛ばされて散った花は元には戻らなくて、酷い有様だった。
それがどうしても気になってしまって、足を向けるとそこはまた綺麗に手入れされている。
半分は小さな緑の芽が出てきており、半分は花が咲いている。
『そっか、種…植えたんだ。』
「…うん、そうだよ。」
『!!』
花壇のそばにまで寄って、膝を折って屈むとそっとその出た芽に指を添えた。
つい零れたただの独り言に、返ってくるとは思ってもなかった声に驚いて振り返る。
そこにいたのは予想はしていなかったわけではないが、タイミングのよさに眉を下げてしまうのは許してほしい。
『…ゆきむら、さん。』
「久しぶり、かな…?」
振り返った先に立っていたのは、如雨露を手に抱えた幸村精市。
彼は少しだけ驚いたように目を丸くしたが、すぐにやさしく表情を笑みに変えた。
それに気まずさは消えないものの、眉を下げたまま同じように久しぶり、言葉を返す。
『…これ、幸村さんが植えなおしたんですか?』
「まあ、うん。葛西部長にも手伝ってもらっちゃったけどね。」
ちょっと苦笑気味に言いながら、あたしの隣までくると、花壇に水をあげ始める幸村さん。
その姿をぼーっと斜め後ろから見ていた。
あんなに最悪な状況で最悪な態度をとったにもかかわらず、彼は特に気にした様子も見せずに接してくれている。
それがどうしようもなくありがたいのに、どうしようもなく申し訳なくて…。
『…幸村さん…。』
「…何かな。」
『…あの日、話を聞かずに遮ってしまったり、突然逃げてしまってすいませんでした。』
「…。」
『でも、少なくとも今は…マネージャーにはなれません。』
はっきりと言い切った言葉に、如雨露を地面に置くとゆっくりと幸村さんが振り返った。
その目と今度はしっかりと逸らすことなく、まっすぐに目を合わせる。
「どうしてだい?」
『…正確にはなってはいけないんです。私は…部員に嫌われてるから。』
「!」
『嘘じゃありません。はっきり言われてしまいましたし、私も…つい意地になって嫌いだって言ってしまいました。』
不甲斐無いことだけどそれが事実だから、少しだけ視線を泳がせつつも、本当のことだけを言う。
私の言葉に幸村さんは驚いたように目を丸くしてから、少しだけ悲しそうな顔をした。
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