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「嫌い…か。」

『…自分が嫌いな人間が自分の目の届くところで、邪魔されたくない大事な居場所でうろちょろされるのは…嫌だと思うから。』

「…そうか、な。」

『だから、マネージャーは遠慮させて下さい。』




苦笑しながらもそういうと、幸村さんは酷く残念そうで少し悲しそうに眉を下げてる。




「水瀬さんは…、テニス部は、嫌い?」

『…。』




まっすぐに聞かれた質問は、私がこの間までぜんぜん向き合えなくて答えが出なかった質問。

聞いてきた幸村さんは、少しだけ不安そうに瞳を揺らしているような気がした。




『関わりたくない、そう思ってました。』

「!…。」

『…でも、私テニス部嫌いじゃないよ。』

「本当、に…?」

『…私、君たちのテニスが…、好きだから。』




ちゃんと笑えてるか判らないけれど、その気持ちは本当だから。

まっすぐに打ち込んでいる姿も、楽しそうに黄色いボールを追っている姿も、ただひたすらに素振りをしてる姿も。

それは私には無いもので。多分、私は所詮無いもの強請りに、彼らに憧れている。

幸村さんは少し目を見開いたあとに、酷く嬉しそうに、ふわりと綺麗に笑った。




「ここに植えたの、菊なんだ。」

『きく?菊って、あのお墓参りとかで持っていく菊ですか?』

「そう。でも西洋菊のほうでね。もっと可愛らしくて色とりどりな種類の菊なんだ。」

『へえ、でも、どうして…?』

「水瀬さんがまた、ここに来るんじゃないかって思ったから。見てほしかったんだ。」

『え?』

「…菊の花言葉って、知ってるかな?」




首を少し傾げながら幸村さんは私を見た後に、花壇の小さな芽に視線を落とした。

小さく『ごめん、知りません。』と返すと、幸村さんは優しく微笑んで「そっか。」とだけ返した。

そしてゆっくりと視線を私に戻すと笑いつつもはっきりとした声で言った。




「調べてみるといいよ、花言葉は本によっても違うから楽しめると思うから。」

『あ、うん…。』

「あ!ごめん、部活行かなきゃ!話せてよかった、ありがとう。」




ふわりと笑って如雨露を手に持つと、そうこの方へ走っていく。


(なんか…上手く誤魔化されてしまったような…)


少し納得できないことに眉を寄せていると、ふと呼ばれたような気がして振り返る。




『はい!』

「水瀬さん、俺はあの時嬉しかったんだ。」

『!』

「ああやって他の人がはっきりと言ってくれたのは君だけだったから。」




少し離れたところで振り返って、ふわりと幸村さんが微笑んでいた。

その言葉に目を丸くするとそれ以上はなに言わずに、彼は走っていった。

彼が言った言葉が離れなくて、少しの間花壇の前に立ち尽くしたままで、ふらふらと図書室に足を動かした。











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