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「…あやか…?」
『…、ん……やなぎ、くん?』
「どうした、酷く放心していたようだが、そんな状態で歩くな、危険だ。」
『…う、ん。ごめん。』
名前を呼ばれて、ふと顔を上げると前には柳くんが制服で立っていた。
いつの間にか私は校舎に戻っていたらしい。
ゆっくりと歩いているだけだったつもりだが、どうやら思っている以上にふらついていたらしく、柳くんが眉を寄せていた。
『あ、れ…柳くん部活は…?』
「今日は生徒会の方を先に優先していてな。部活はこの後だ。」
言われて見れば手にはなにか資料を持っており、そういえば彼は生徒会の委員だったと、思い出した。
『そっか。』と返事をすると、何か気になったのか、柳くんがまた眉間に皺を寄せた。
どうしたのだろうかと首を軽くかしげると、何を思っていたのか判ったのか、彼から聞いてきた。
「そんなにぼーっとしてどうしたんだ。」
『あ…、うん。…柳くんは、菊の花言葉って…知ってる…?』
「きく?」
『うん、菊の花。』
誤魔化しようもないし、もしかしたら知っているかなと、興味本位で柳くんに尋ねる。
柳くんは急に関係ないことを聞かれて少し驚いているかのようだった。
聞き返されたことを肯定すると、柳くんは少しだけ考えると、私を見つめてきた。
『な、なに?』
「いや、なんでもない。」
『……、そう。』
何かを思ったようだったが、それを話してくれる相手ではない。
聞いたところで上手くはぐらかされてしまう、それは柳くんと友達になってわかったことだった。
「私を信じて。」
『え?何…?』
「菊の花言葉だ。“高貴”“高潔”それと、“私を信じて”」
『…わたしを、しんじ、て…?』
柳くんは得意のノートを手にして、いつもの糸目で私を見つめている。
私はその花言葉に、どうも声が出にくくて、花言葉を繰り返すことしかできなくかった。
『へえ、でも、どうして…?』
「水瀬さんがまた、ここに来るんじゃないかって思ったから。見てほしかったんだ。」
幸村さんが言っていた言葉を思い出す。
それは、幸村さんが私に言いたいことだと、したら…?
――…俺を、信じて。
幸村さんがそう言った気がして、どうしようもなく泣きたくなってしまったのは、どうしてだろう。
(再会して)
(籠められてた花言葉に)
(何故か酷く泣きたくなった)