□世界はそして変わる
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星月学園。

神奈川県の奥のほうに位置する、比較的田舎の小高い丘の上にある、全寮制の高校。

そこの保健室に現在、水瀬あやかはいた。




「あやか、お茶を入れてくれないか。」

「俺にもくれー、あやか。」

『………、わかりました。わかりましたからそんな目でこっちを見ないで下さい。…その代わり、ふたりとも仕事して下さい。』




多少の抵抗を試みたものの、じとりとこのふたりに見つめられれば動かないわけにはいかない。

ふう、と小さくため息をついて、膝に乗せて撫でていた猫を横に置くと、立ち上がって給湯室に向かう。

黒猫…基、焔はピクリと尻尾を立てると身を起こし、ベッドから飛び降りるといつものように私の後ろを着いてまわる。

もう慣れた手つきで湯飲みを用意し、急須を取り出すとお茶葉を入れてお湯を入れてお茶を煎れた。

おぼんに乗せると、ふたりがいる部屋に戻り、それぞれの隣に零さないように置き、自分もちゃんと椅子に座って机に自分のカップも置いた。




「ん…、夜久のは不味いが、あやかのは普通だな。」

「…同感。」

『普通しか煎れられません。琥太郎先生も一樹先輩も嫌なら飲まないでいいですよ。』




無表情のままそう言うと、自分のカップのお茶を一口飲む。

ふたりは顔を見合わせると、琥太郎先生は少し呆れ気味に、一樹先輩は苦笑気味に笑って見せた。


星月琥太郎。星月学園保険医兼理事長代理。多分、私がこの学園で一番頼っている人。

不知火一樹。星月学園星詠み科3年生徒会長。私を救ってくれた星詠みの大事な先輩。


ひょいっと膝に乗ってきた焔の背中を優しくなでながら、カップを机の上に戻す。

特に話すことが無くても流れる沈黙も空気も少しだって気まずくなんて無くて、酷く落ち着く。

以前もこの感覚を持っていた。それはこの学校でも彼らでもない、そしてきっともう感じることはできない。

カップに映る自分を見つめながら、彼らの顔をひとりひとりと思い出して、大事な後輩を思い出す。


(…全国制覇達成して、少しは勉強してるかな。)


ある意味テニス馬鹿な後輩を思い出して、微笑んだ直後にそれを遮る様にして突然映像が流れる。




『……、え?』

「あやか…?」

『っ!い、行かなきゃ…っ!』

「っ、おい!ちょっと待てって!どうしたんだよ、あやか!」




頭を流れた映像にいても立ってもいられずに、乱暴に椅子から立ち上がると、膝に乗っていた焔は器用に床に下りて私を見上げる。

今はどんなこともよりも今見たことで頭がいっぱいで、ドアのほうに駆け出す。

それを止めるように一樹先輩の手が私の腕をつかんで、反射的に振り返る。

突然のことに私を見るふたりの顔はひどく驚きと心配の色が現れているが、私はそれよりも彼の方が心配だった。

切羽詰ったような表情をしていたのかふたりは、少し真剣に顔を引き締め、離さない様にしっかりと私の腕をつかみなおした。
















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