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「ほーんと、面白いことしてくれるのう。」

「何で、こんな事…。」

「さあの。俺にもわからんぜよ。ただ、ちょっと他の女子とは違うって言うのは言えるかの。」




仁王を見ると、テニスをしている時のように実に面白そうに笑顔で絵を見上げていた。

つられる様にもう一度、その絵を見上げる。

仁王の言葉はペテンとか言ってみたりからかってきたりで、嘘を言う事も少なくない。


…だけど、今のこの言葉は本心だってわかった。


水瀬あやか。

作品紹介でつけられた紙に書かれた、彼女の名前を目で追う。




「何があったかなんて知らんし、まあ…想像つくから聞かんけど。決め付けないで観察でもして見たらよか。」

「…観察って、お前…。」

「自分の目で見る。そんで素直に謝ること。逃げれば逃げる程言いだしづらくなるぜよ。」




仁王は、少し真面目な顔で絵を見ながら言い放った。


(自分の目で…、か。)


答えは自分の中で出ている。

…ただ、仁王の言う通り言いづらくて。




「…、何だかなあ…。」



初めて会った時のあいつの顔、言い放たれた言葉。

体育で傷ついていくあいつの姿、俺に向かって見せたぎこちない笑顔。

ジャッカルの言葉、困惑した表情。仁王の言葉、時折一瞬だけ見せる笑み。

ぐるぐると頭の中を閉めていくそれらに、思わず口から零れた言葉は静かな美術室に溶ける。




「…。」

「…。」




お互い、何もしゃべらずにただただ見上げる。

仁王が俺を見ずにあれを言ったのは、本当に俺の中の葛藤を判ってしまったからなんだろう。

へらへらしてペテンとかしてる癖に何時だって仁王は全てわかっているように俺に言うんだ。

多分、俺が判りやすくて餓鬼っぽいからなんだろうけど。

それを見せ付けられるかのように感じて、眉を下げて俺も絵を見上げていた。















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