CANAAN夢小説
□日常的な非日常
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「マリア、大変なんだ」
カナンから携帯電話に連絡があったのは、昼食を終えて間もなくだった。
滅多にないカナンからの電話にマリアは喜んだが、どうやら事態は深刻らしい。開口一番に「大変なんだ」である。
一体何事だと問いただすが、詳細は電話でなく直接合って話たいと言う。
マリアは行き着けの喫茶店を待ち合わせ場所に指定し、急いで家から飛び出した。
喫茶店に着き、アンティーク調の小洒落たガラス戸を押し開けると、カナンの姿を探す。
すぐに亜麻色の頭が視界に映る――カナンだ。体を縮こませ、落ち着かなそうにテーブルの下で足をブラブラ揺らしながら、紅茶のグラスに入ったストローに噛み付いていた。
「カナン、お待たせ!」
小走りに駆け寄ると、カナンは瞳を輝かせる。席に着くなり、居ても立ってもいられずにマリアは早口にまくし立てた。
「どうしたのカナン? 大丈夫? 仕事に行くとか――?」
もしかしたらカナンが遠くへ行ってしまうかもしれない。日本は傭兵という職業と縁が無い。仕事はいつも外――国外から舞い込んでくる。今は日本で暮らしていても、要請があれば発たなくてはならない。だが心配で青くなるマリアを尻目に、カナンは首を左右に振った。
「違うの?」
今度は縦に首が振られる。マリアは大きく安堵の息を吐いた。
「じゃあ、どうしたの?」
深刻な様子から、マリアは話とはカナンの仕事についてだと思い込んでいた。だが、仕事の他にここまでカナンが消沈している理由が思い付かない。
「えーと、その……」
珍しく歯切れの悪いカナンに、マリアは更に驚いた。サバサバとした性格のカナンがここまで困るなんて、一体何があったんだろう。
「遠慮なんてしないで? 私とカナンは、友達だもん。何でも力になるよ」
友達という単語に、カナンが反応する。そして意を決したという風に、ゆっくりと口を開いた。
「その……服が無いんだ」
「……へっ?」
予想し得ない台詞に、思わず間抜けな声が口を付いた。
「来週、アキトと2人で出掛けることになったんだ。日本の女の子は、異性と何処かに行く時はお洒落をするんでしょ?」
なるほど。何となく事情が読めた。
とりあえず、マリアは更に話を聞くことにした。