CANAAN夢小説

□日常的な非日常
1ページ/5ページ

「マリア、大変なんだ」


 カナンから携帯電話に連絡があったのは、昼食を終えて間もなくだった。
 滅多にないカナンからの電話にマリアは喜んだが、どうやら事態は深刻らしい。開口一番に「大変なんだ」である。

 一体何事だと問いただすが、詳細は電話でなく直接合って話たいと言う。

 マリアは行き着けの喫茶店を待ち合わせ場所に指定し、急いで家から飛び出した。


 喫茶店に着き、アンティーク調の小洒落たガラス戸を押し開けると、カナンの姿を探す。

 すぐに亜麻色の頭が視界に映る――カナンだ。体を縮こませ、落ち着かなそうにテーブルの下で足をブラブラ揺らしながら、紅茶のグラスに入ったストローに噛み付いていた。


「カナン、お待たせ!」


 小走りに駆け寄ると、カナンは瞳を輝かせる。席に着くなり、居ても立ってもいられずにマリアは早口にまくし立てた。


「どうしたのカナン? 大丈夫? 仕事に行くとか――?」


 もしかしたらカナンが遠くへ行ってしまうかもしれない。日本は傭兵という職業と縁が無い。仕事はいつも外――国外から舞い込んでくる。今は日本で暮らしていても、要請があれば発たなくてはならない。だが心配で青くなるマリアを尻目に、カナンは首を左右に振った。
 

「違うの?」


 今度は縦に首が振られる。マリアは大きく安堵の息を吐いた。


「じゃあ、どうしたの?」


 深刻な様子から、マリアは話とはカナンの仕事についてだと思い込んでいた。だが、仕事の他にここまでカナンが消沈している理由が思い付かない。


「えーと、その……」


 珍しく歯切れの悪いカナンに、マリアは更に驚いた。サバサバとした性格のカナンがここまで困るなんて、一体何があったんだろう。


「遠慮なんてしないで? 私とカナンは、友達だもん。何でも力になるよ」


 友達という単語に、カナンが反応する。そして意を決したという風に、ゆっくりと口を開いた。


「その……服が無いんだ」

「……へっ?」


 予想し得ない台詞に、思わず間抜けな声が口を付いた。


「来週、アキトと2人で出掛けることになったんだ。日本の女の子は、異性と何処かに行く時はお洒落をするんでしょ?」


 なるほど。何となく事情が読めた。
 とりあえず、マリアは更に話を聞くことにした。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ