ARIA 連作短編夢

□Navigation.1 ローズクォーツ
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 明日の天気予報は晴れ。気温は低めだが風は穏やかで、お出掛け日和になるそうだ。今日1日、懸念していた降雪も無く、朝から空に張り付いていたどんより雲も、夕方には何処かに吹き飛んでいった。
 そんな、完璧な空模様に満足して迎えた夜は――長かった。




「ねぇねぇ藍華ちゃんっ! こんなのはどうかなっ!?」


 クローゼットからお気に入りのワンピースとコートを手に取り、着せかえ人形にするように体に合わせて、ベッドに座り込んでいる藍華ちゃんの方へと振り返る。
 膝を折って、膝頭に肘を乗せて頬杖を突いている藍華ちゃんは、仰向けに眠っているアリア社長のお腹をつついたり、被っている毛布の裾にじゃれついてくるヒメ社長にちょっかいを出しながら、うんうんと頷いていた。


「んー、まあ、良いんじゃないのー?」

「駄目だよ藍華ちゃんっ! 心が篭もってないよう!」

「アンタが優柔不断すぎるの! まったく、いつまでやってるつもりなのよ?」


 うっ、と言葉が詰まる。時計を見ると、藍華ちゃんに明日の服選びを手伝ってもらってから1時間以上が経っていた。時間は真夜中に近くなっている。リビングから伝わる暖炉の熱は、火を消した後もまだいくらか残ってはいたが、床は既にしんしんと冷え込んでいた。


「だって、久しぶりのお出掛けなんだもん……」


 明日、私はARIAカンパニーの事務全般を取り仕切っている、唯一の男性社員の凪さんと、一緒にお出掛けする予定だった。こんなにも身なりに悩むのは、何を隠そう、凪さんは私の見習い時代からの想い人。少しでも可愛い女の子を演出しようと、前々から色々と準備をしていたのだが、いざ当日を迎えるとなると自分の感覚に不信感が芽生えてきてしまった。それでARIAカンパニーに泊まりに来た藍華ちゃんに手伝ってもらっているのだけれど、私の不安は、私が思っていたより何倍も手強かった。もうずっと着せ替え状態なのに、ちっとも安心することが出来ない。


「気持ちは分かるけど、そんなに気にするくらいならとっとと告白しちゃえば良いと思うんだけどなぁー」
 
「こ、こ、告白なんて……無理だよう。それに、藍華ちゃんだってまだ――」

「うっさいわね! 今はアンタの話をしてるの!」


 アル君に告白してないのに、と言おうとすると、勢い良く遮られてしまった。真っ赤になる藍華ちゃんはとっても可愛い。アル君も藍華ちゃんに気があるように見えるし、何も心配すること無いと思うのになぁ。


 
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