ARIA 連作短編夢
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「はぁ〜。良いお湯だったねぇ〜、アイちゃん」
そう言いながら、灯里さんは座卓の下に足を潜り込ませた。鞠をあしらった柄がいくつも描かれた、髪と同じ桃色の浴衣が良く似合っている。後で写真を撮って、ここには居ない彼に見せてあげたら、きっと顔を真っ赤にして喜ぶだろう。
私も灯里さんに倣って絨毯の上に腰を下ろし、座卓の下へと足を伸ばす。途中、灯里さんの足と私の足がぶつかって、思わず顔を見合わせて笑い合った。
浴衣姿の灯里さんは、いつもとは少し違った雰囲気を纏っている。湯上がりで火照った肌からは女の色気が醸し出されていて、同性の私でもどきりとしてしまう。
「温泉って、ただの大きなお風呂かと思ってましたけど、とっても気持ち良かったです」
「癖になっちゃうよねぇー」
私達は、ARIAカンパニーのお休みを利用してちょっとした旅行に来ていた。温泉旅行。日に日に寒さを増していく冬にはぴったりで、疑似映像でしか温泉というものを知らない私の為に、慰安も兼ねて灯里さんが企画してくれたものだ。
混浴ではないとは言え、不特定多数の人と入浴なんて初めての経験で、最初は戸惑ったし抵抗もあった。けれど予想を遥かに上回るの温泉の広さに圧倒されて、すぐにそんなことは何処かに吹き飛んでしまった。
この温泉旅館は、灯里さんはアリシアさんや藍華さん、アリスさん達と何度も来たことがあるらしく、慣れた様子でお屋敷を改築したのだというただっ広い温泉内を案内してくれた。
私も、今は灯里さんと同じように旅館が貸し出している浴衣をレンタルして着ている。私が着ているのは何かの花をあしらった柄の、青の浴衣だ。私には少し大人っぽすぎるデザインかなと思ったけれど、灯里さんが似合うと言ってくれたので気に入っている。
「ぷいぷいにゅー、ぷいにゅっ!」
首からタオルを下げたアリア社長が、座卓の上へと身を乗り出した。伸ばした手の先にあるのは、部屋に戻る途中で買ってきたコーヒー牛乳。