ARIA 連作短編夢

□Navigation.6 ジャスパー
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「凪くーん!」


 馴染みのある声に肩を叩かれ振り返ると、そこは小さなカフェ。昼時を過ぎているからか、客足はまばらだ。そのテラス席に、見知った三人衆が座っていた。軽く手を振ってそのまま去ってしまうことも出来たが、そうする理由も無かったので踵を返してそちらに向かって行く。


「ヨォ、皆揃ってどーした?」


 挨拶をしながら、ジャケットのポケットに両手を突っ込んだ。暦の上では春を迎えたが、外はまだ少し肌寒い。

 オレの名前を呼んだ男はコウモリのように黒ずくめの格好をしていて、夏は暑苦しいがこの時期としては比較的適当に思える。とは言えマンホームから来た観光客にとっては物珍しいことこの上ないので、オレが歩み寄る間にも、通りすがりに不思議そうに目を向けていく観光客が何人もいた。


「いやぁ、特に何かあった訳じゃないんですけど、買い出しに来ていたら偶然ウッディー君と出会いまして。それで、せっかくだからとここで一緒に食事をしていたら、暁君が来て、食事が済んだ頃に――」

「オレが来た、と」

「ハイ」


 邪気の無い笑顔を浮かべながら、いやに解説じみた口調で成り行きを説明するアルに、ひとまず頷いた。「仲間外れにした訳じゃありませんよ」という余計な一言を無視して視線を移すと、ウッディーがひらりと手を振った。逞しい体躯からは一見想像出来ない、お茶目な仕草だ。


「凪君、昨日の朝ぶりなのだー」

「おう」


 ウッディーは毎日シルフの仕事を始める前に、実家で飼っている鶏が産んだ卵をARIAカンパニーに届けに来てくれる。つまりはほぼ毎日会うので、ここ数年、久しぶりとは滅多に言ったことがない。
 
 そして、もう1人、腕を組みながら椅子に座り、ふんぞり返っている男に目をやる。出雲暁。悪友にして恋敵、喧嘩仲間、親友なんて口が裂けても言ってやらない――。


「暇そうだな、ズル男」

「休日くらい暇してて悪いか」


 バチバチ、とオレと暁の間で火花が散る。今日はこうしててもオロオロする子がいないので一安心だ。このメンバーの時は、いつも頃合いを見計らって、アルが口を挟んでくるのだ。


「凪君も、今日はお休みですか。最近ARIAカンパニーは忙しそうですね?」


 案の定、アルのフォローが入り、俺達の間には無言のうちに停戦協定が結ばれる。
 ここ数週間の目の回るような忙しさを思い出して、思わず苦笑が浮かんだ。


「ああ……。前にマンホームのどっかの有名人が旅行に来て、たまたま灯里ちゃんのゴンドラに乗ったんだけどさー。何だか凄く気に入ってもらえたらしくて……何かの雑誌に、灯里ちゃんの話が載ったらしいんだよな。それで」

「へぇー、凄いじゃないですか! 一躍人気者ですね」

「さすがは灯里ちゃんなのだー!」

「ふんっ、物好きな奴もいたもんだなっ」


 思い思いの意見に、苦笑が更に深まる。
 立ち話も何なので、適当に近くの椅子を掴んで引き寄せて、3人のテーブルの側に腰掛けた。


 
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