ARIA 夢小説

□青の窓辺
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 朝、突然の電話で目を覚ますことになった天津は、寝惚け眼をこすってから普段着のシャツに腕を通した。そして、あくびをひとつ。
 時計を見るともう昼に近いのだが、火炎之番人になってからというもの、元々早くはなかった天津の朝は更に遅くなっていた。

 火炎之番人という仕事は、なかなかに過酷なものだ。職場である浮き島の動力炉とその周辺は、とにかく暑い。立っているだけで汗が噴き出し、動き回るとなるとたちまち疲労で体が重くなってくる。ミスが許されない専門的な機器の操作に神経は擦り減り、動力炉から発された猛烈な熱気に体力を奪われる業務。生半可な覚悟では半日ももたない。

 休める時に休まないとやってらんねぇ、とは見習い時代に天津を指導してくれた先輩の言である。言われずとも、その言葉の正しさは現場が証明してくれている。
 なので、休日には気の済むまで眠りこけている天津にとって、まだ太陽が昇りきっていないこの時間帯はむしろ早いくらいであった。

 電話のベルが鳴った時、本当は居留守を決め込んでも良かった。しかし、胸騒ぎというか、何故だか電話を取らなければいけない気持ちに駆られて、重だるい体を引きずりながら受話器を取ってしまい、それ故、今からわざわざネオ・ヴェネツィア市街から浮き島にやって来る、物好きな友人を出迎える羽目になったのだ。
 
 後悔はしていないが、睡眠に対する未練はある。眠気のあまり朝食を取る気も湧かず、ぼんやりと居間の座敷に腰掛け窓の外を眺めていた。

 海の色を映したかのような澄んだ青の美しさに、思わずほうっと息を吐く。雲は少なく、日差しが真っ直ぐに降り注いでくる。天津は、この海とはまた違う、突き抜けるような青さが好きだった。

 髪を揺らす風に乗って、近所の定食屋から漂ってくる肉の焼ける香ばしい香りが、ほのかに天津の元に届いてくる。
 浮き島の気温は、動力炉の熱のおかげでネオ・ヴェネツィア市街と大差ないが、上空にある為に風は冷たく、強い。ばさばさと髪が風に遊ばれる。
 腹が減ったな、と心の中で独りごちた直後、響く呼び鈴の音が、友人の来訪を告げた。


 
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