ARIA 夢小説
□久遠の青
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「凪さーん! ただいまーっ!」
「ぷいにゅ〜!」
「はいはーい、お帰りアイちゃーん、しゃちょーう!」
日も沈みかけた頃。元気一杯で個人練習から帰ってきたアイちゃんとアリア社長を、キッチンから声を張り上げて出迎える。
アイちゃんはとたとたと駆け寄って来て、「今日の夕飯は何ですか?」と首を傾げた。
「こらっ。まずは手洗いうがいに行っといで」
「むぅーっ。分かってますぅ〜」
ぱたぱたとまた駆け出して行くアイちゃん。社員同士というよりは兄妹のようなやり取りに、思わず笑みがこぼれる。
ちなみにアリア社長は手洗いうがいとは無縁なので、オレの足元でつまみ食いの機会を虎視眈々と窺っている。
灯里ちゃんが一人前になり、アリシアさんが引退をして、環境はがらりと変わった。更には数ヶ月前に新入社員としてアイちゃんがやって来て、見慣れた風景はカメラのシャッターを切ったかのように、あれよあれよと言う間に変化を続けていった。
だけど裏方であるオレの仕事にはさして大きな変化も無く、小川のせせらぎのような穏やかな日々が続いている。
しばらくして洗面所から戻って来たアイちゃんが、盛り付けの終わったサラダを手に取った。
「凪さん、このお皿持って行きますね!」
アイちゃんの笑顔が、まだ修業中だった時の灯里ちゃんのそれと重なった。いつもは微笑ましく感じるその感覚は、今日は何故だかちくりと胸を刺す。
「……凪さん?」
「あ、ゴメン。ぼーっとしてた。お手伝いありがとー」
何とか返事をすると、アイちゃんは何事も無かったようにテーブルへと小走りに向かっていく。
その小さな背中を見つめる自分の顔は、自分でも分かるくらいに作り物めいていた。思わずぺたりと自分の顔を触る。
――皆……変わった?
ふと、リビングの窓際に飾ってある3枚の写真が目に映った。灯里ちゃんとアリシアさんとオレ、アリア社長が映っている写真に、灯里ちゃん、藍華ちゃん、アリスちゃんが3人で一緒にいる写真。そして、灯里ちゃんとオレとアリア社長と、アイちゃんが一緒にいる写真。その中で、灯里ちゃんの両手が視野の中心に据えられる。
両手袋から片手袋へ、そして手袋なしへ。時の流れと、彼女の努力の象徴。
それを目にしたオレは、呆然とその場に立ち尽くした。