ARIA 夢小説

□微妙な距離
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 アウグーリオ!ボナーノ!

 歓声と爆竹の音が星空に響くと、人々は時間を気にしなくなる。皆が新しい年の始まりを祝い、思い思いの時間を過ごす中、オレはサンマルコ広場の一角に設けられたテーブルで、晃さんと2人きりだった。


「よし、凪、もう一本開けるぞ」

「あのー、もうそろそろ、止めといた方が良いんじゃ……」

「ああ? 凪のくせに、私の酒が飲めないって言うのかぁ?」

「いえ、そうじゃなくてですね……」


 すっかり出来上がっている晃さんは、何か気に入らないことがあるとワインの瓶を振りかざしてテーブル越しにこちらに詰め寄ってくる。どうにか宥めようと試みるが、アルコールの入った彼女を止められる者はアリシアさんかグランマくらいしかおらず、結局は押し負けられて深紅の葡萄酒がグラスに注がれてしまう。


「そーら、飲めっ!」

「はあ、いただきます……」


 上機嫌の晃さんは、自分のグラスにもなみなみとワインを注ぐと、勢い良く煽った。通りすがりの酔っぱらいが、その見事な飲みっぷりを無責任に褒め讃えていく。
 酔っぱらいの歓声に朗々たる笑顔で応える晃さんを、飲み比べが始まらないと良いけどと、一歩引いたところで見守りながら頬杖をつく。
 
 毎年恒例の年越しの宴会には、見慣れたメンバー全員がここサンマルコ広場に集まった。最初の内は皆で盛り上がったのだが、しばらくすると話のネタも尽きてきて、個人行動が多くなってくるのも毎年恒例だった。灯里ちゃんはアイちゃんと散策に行き、アリシアさんはグランマと積もる話があるようで揃って席を外した。藍華ちゃんもアルと2人で何処かに出かけてしまい、アリスちゃんもマイペースに1人ですたすた人混みに消えて行ってしまった。アテナさんは、アリスちゃんが消えた方向と酒を飲み続ける晃さんを交互に見てはオロオロしていたので、可哀想なので行って良いよと声を掛けた。暁とウッディーは職場や家族間で何かあるらしく、早々にそちらに行ってしまった。で、結果、あぶれたオレが酔っぱらった晃さんに付き合うことになったのだった。まあ、それも毎年恒例ではある。


「何だ、全然酒が減ってないじゃないか。まさかもうギブアップか? つまんねーなぁ」


 オレのグラスの中身を見た晃さんが唇を尖らせるのを、苦笑してやり過ごす。まだまだ余裕はあったが、酔うつもりはない。酒は好きだが、目の前に酒に呑まれそうな奴がいると思うように飲めなくなってしまうのだ。毎年、晃さんは酔いつぶれて寝てしまうか騒ぎ出すかのどちらかで、後者の場合、可及的速やかに対処をしなければならない。状況によっては晃さんの評判に関わってしまう可能性もあるので、任務は案外重要なのだ。



 
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