Fate/stay night・EXTRA
□過去の偉業に対抗せよ!
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「マスター! 余から少々話がある!」
アリーナでの鍛錬を終え自室に戻ってくるなり、紅いドレスの暴君――セイバーは拳を握りしめ志に詰め寄ってきた。
覇気に燃える若草色の瞳には、普段のような余裕の色が無い。真摯な眼差しと声色に、自然と背筋が伸び、息を呑んで次の言葉を待った。
「そなたと余には……真に、真に遺憾だがな、ひとつだけ足りないものがあるのだ」
全身に気迫をみなぎらせ、それでも少し寂しそうにセイバーは言った。
――足りないもの。
その言葉に、痛みにも似た胸の高鳴りを感じた。
セイバーはともかく、志にとって足りないものというのは、それこそ挙げればキリがない。
マスターとしての知識、技術、覚悟、聖杯にかける願い――そして記憶。
どれも、聖杯戦争を勝ち抜いていくには必要なものだ。今までセイバーは寛大な心で、それでも良いと優しい言葉を掛けてくれたが、ついに手厳しく自分の甘さを指摘されてしまう日が来たのだろうか。
顔には出ないよう、必死に自分の中で覚悟を決める。セイバーはいたずらに人を貶めるようなことを言う性格ではない。今から告げるられることは全て真実であるだろうし、恐らく他のマスターから見れば、今まで特に不満も無くセイバーが付いて来てくれたことが不思議なくらいだろう。
目の前の現実に目を背けるあまり、その優しさを裏切ってしまうことなどしたくない。どんな言葉が来ても屈したりするものかと、深呼吸をひとつした。
ややあって、セイバーの小さな唇が動き出す。