ARIA 連作短編夢

□Navigation.1 ローズクォーツ
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「明日の買い物って、デートとかじゃなくて、アイちゃん歓迎会の為の買い出しなんでしょ?」

「うん。そうだよ」


 そう、春になったら、ついにARIAカンパニーに新入社員がやって来る。私の、初めての直接の後輩だ。その新入社員というのは、4年前にアクアで出会い、仲良くなったアイちゃん。メールのやり取りも頻繁にしていて、たまにわざわざマンホームから遊びに来てくれたりもしていたんだけれど、私はアイちゃんがウンディーネになりたいと思っていることを全然知らなくて、求人の応募に名前があった時は飛び上がってしまいそうなくらい驚いた。


「買い出しねぇ〜。私も人のこと言えないけど、アンタ達のお出掛けって、いっつも買い出しな気がするんだけど」

「そんなことないもん! たまにお散歩も行くよ!」

「……それは、良かったと言うべきなのかしら……」


 大きな溜め息を吐く藍華ちゃん。デートでないなら、ここまで張り切る必要はないということだろうか。でも、今年は大雪が降る日が多くてなかなか満足に外に出られず、晴れても雪かきの繰り返しで、外出は久しぶりなのだ。それだけでも嬉しいというのに、明日は凪さんと一緒。おまけに藍華ちゃんがアリア社長を預かってくれると言うので――いつも一緒に行きたがるアリア社長も、気を遣ってくれているのか、ヒメ社長と居られるからか、不満はまったく無いようだ――正真正銘、2人っきりのお出掛けなのだ。喜んだって良いと思う。


「ま、浮かれる気持ちはよーく分かるわ」


 勝手に先を読んでふてくされていると、考えていることと真逆なことを藍華ちゃんは口にした。さすが、恋する乙女の同志、話が分かる。


「でもさすがに悩みすぎ!」

「ス、スミマセン……」

 
 夜更かしはお肌にも悪いんだからねー! と言葉を続ける藍華ちゃん。藍華ちゃんのお説教には役立つ豆知識が出てくることも多いから、しょんぼりもするけれどとてもお勉強になる。安眠効果がある飲み物や、適切な睡眠時間について熱弁していく藍華ちゃんの息は、喋り終える頃には思わず大丈夫? と声を掛けてしまうくらいに乱れていた。本当に、私は藍華ちゃんにいつも心配を掛けている。自分の不甲斐無さに、いよいよ申し訳無さでいっぱいになってくる。


 「付き合わせちゃってごめんね、藍華ちゃん。明日も、せっかくお休みが重なったのに……」


 藍華ちゃんは実は、明日がオフだったのだ。久しぶりに遊びに行こうと何日か前に声を掛けてくれたのだけれど、生憎と私は先約有り。その事を告げると、ならば前の日の晩に泊まりに行く、ということを提案してきてくれて、今に至っている。朝は慌ただしくなるが、当日を思うと緊張して眠れなくなりそうな――そして案の定な状態の――私にとっては、とてもありがたい申し出だった。言葉に出来ないくらい感謝しているのに、いつも何かしてもらうばかりで、藍華ちゃんにはなかなか恩返しが出来ない。


 
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