ARIA 連作短編夢

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「アリスちゃん!」

『お久しぶりです。元気そうですね?』


 その言葉とは裏腹に、昨日会ったばかりというような、親しげな口調。水先案内業界の歴史にその名を刻んだ彼女の顔が、鮮明に思い浮かんでくる。


「うん! 元気だよ! アリスちゃんも元気だった?」

『ハイ。私もこの春から直接指導する後輩が出来まして、風邪をひく間も無いくらいでっかい忙しいです』

「そうなんだぁ〜」


 アイちゃんが来る前、藍華ちゃんがARIAカンパニーに泊まりに来た時に、アリスちゃんもそろそろ直接の後輩が出来る頃かも……と言っていたけれど、その予想は大当たりだったようだ。一体どんな子だろう。恥ずかしそうに小声で告げてくるのが、返って強くアリスちゃんの喜びを私に伝えてくる。私はアリスちゃんと一緒に先輩になったんだ。その事実も嬉しくて、余計に心が躍る。アリスちゃんの後輩は、アイちゃんとも仲良くしてくれるだろうか? ARIAカンパニーにはアイちゃん以外に見習いが居ないから、時間が取れる時は一緒に練習して貰えないだろうか。きっとお互いに良い刺激になるはずだ。

 お互いの近況、仕事のこと、後輩のこと、そんな話題で一頻り盛り上がる。そしてアテナさんのドジっ娘話を聞いて笑った後、沈黙が訪れた。


『あの……灯里先輩』

「なあに? アリスちゃん」


 その瞬間を狙い済ましたかのように、少しだけトーンが下がったアリスちゃんの声。首を傾げていると、すぅっと息を吸い込む音が聞こえてきた。


『ひとつ、先輩のお耳に入れておきたい話があるんですが』


 真剣そのものの声色に、少しの間、返事をすることを躊躇ってしまった。一体何の話だろう。不意に訪れた不安に、心がざわついた。それを誤魔化す為にも、わざと明るく返事をする。


「どうしたの? そんなに改まっちゃって」

 
 今度はアリスちゃんが黙ってしまった。緊張しているのが、受話器越しに伝わってくる。ただ返事を待っているだけだというのに、息苦しい。無言が更に不安掻き立てていく。胸に手を当てて、心の荒波を鎮めようとするが全く効果は無い。

 ごくりと唾を飲み込む。ややあって、言いにくそうに告げられたアリスちゃんの言葉に、私の手が震えた。


 
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