ARIA 連作短編夢

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「……オレンジぷらねっとが……凪さんを引き抜きに?」

『ハイ。私も噂に聞いただけなんですが、会社の上層部が凪さんにお声を掛けたことだけは確かだそうです』


 あまりの衝撃に、私は何も答えることが出来なかった。頭が真っ白になって、何も考えることが出来なくなる。


『――ん輩? 灯里先輩!』


 焦ったようなアリスちゃんの声に、ハッと我に返る。


「……あ、ご、ごめん」


 まるで止まっていた時間が動き出すように、ゆっくり思考力が戻ってくる。何度かアリスちゃんの言葉を頭の中で反芻してみるが、それでも突然ことに理解が追いつかなくて、思わず片手で額を押さえてしまう。


『……大丈夫ですか?』


 心配そうな声。やはり言わない方が良かったかと後悔していそうなアリスちゃんに、気を遣わせてしまわないように何とか声を絞り出す。


「うん、ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよ」


 口にして、何てバレバレな嘘なんだろうと自分でも思ってしまった。声は震えているし、ところどころ裏返ってしまっている。そんなこちらの心情を見透かすかのように、アリスちゃんは穏やかな声で、言い聞かせるようにゆっくりと告げてきた。


『安心してください。凪さんはハッキリと断ったそうですから』

 
 言葉の内容を理解するのに、また、数瞬の時間を要した。その意味を租借出来たかと思うと、自然と呟きが漏れる。それにアリスちゃんが半ば呆れたように返してきた。


「え――ホントに?」

『でっかいホントです。何を言ってるんですか。まさか灯里先輩は、凪さんが先輩やアリア社長を置いて、オレンジぷらねっとに移籍してしまう人だと思っていたんですか?』

「そんなことないよ!」


 慌てて否定する。そんな意図のある言葉ではなかった。渦巻く不安からこぼれ出た、心から安心したいが故の無意識の一言だった。アリスちゃんもそのことを分かってくれたらしく、またいくつかの温かい言葉をくれた。


 
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