ARIA 連作短編夢
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「……凪さん、何やってるんですか?」
不意に飛んできた不審そうな声に、反射的に振り返って人差し指を唇に当てた。とっさに動いた反動で、腕に抱えた荷物がぐらりと重心を揺らしたので、慌てて持ち直す。一方、その声の主は訳が分からないといった風に首を傾げていた。
「――どうしたの、アイちゃん」
中の2人に気付かれないよう声量を落としつつ、海とテラスを隔てる手すりから身を乗り出した。個人練習の為、朝から出掛けていた新人のアイちゃんが、ゴンドラの上からこちらの表情を窺っている。
「アリア社長がへばっちゃったから、ちょっと休憩しようと思ったんですけど……。そんな所で何やってるんですか?」
アイちゃんの言葉通り、アリア社長はゴンドラ内に出来た僅かな日陰の中に入って、力なく仰向けに横たわっていた。ゆっくりと上下するアリア社長の腹を視界に入れながら、オレは愛想笑いを浮かべて気不味さを誤魔化す。
「いやあ、ちょっとね、ははは……」
上手い言い訳が思い付かない。醜い感情に支配されていた時に何の心構えもなく声をかけられたのだから、仕方ないと言えば仕方ない。が、当然、こんなことで誤魔化せるはずがなかった。
「中に入らないんですか?」
ますます不審そうにするアイちゃん。何かもう、逃げ場が無い気がする。こんなの、年下の女の子にどう説明すりゃい良いのよ。格好悪い。
アイちゃんの視線が痛く感じ始めた頃、アリア社長が「にゅうぅぅ」と力無く鳴き始めた。
「あっ、す、すみません社長。もうすぐですからね」
暑いから早く帰ろう、という抗議を受けて、アイちゃんは慌てて桟橋の方へとゴンドラを動かした。地獄に仏、何とか追求を逃れられて良かった。アリア社長には後でお礼に桃缶をあげよう。
「もみ子よっ! 貴様はさっきからソワソワしやがって、何か言いたいことでもあるのかっ!」
「はひっ!? い、いえ、帰りが遅いなぁ〜、って思って……」