ARIA 連作短編夢
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「はい、アリア社長」
「ぷいにゅい!」
1本口を開けて手元に置いてやると、嬉しそうに両手を振って歓声を上げた。可愛らしい仕草に自然に笑みがこぼれる。手を動かしたついでに、灯里さんと自分のところにもコーヒー牛乳の瓶を持っていく。
「はい、灯里さんも」
「ありがと〜」
そうして手元に残った、自分の分の瓶。改めてそれを、じっくりと見つめてみる。
実は、瓶に入った飲み物は、アクアに来て初めて見た。瓶は重いし割れやすくて危ないしから、マンホームではすっかり時代遅れの過去の遺産扱い。初めて見た時はその分厚さとずっしりとした重みに驚いたが、よく見てみると硝子とは違った輝きがあって凄く綺麗で、何だか宝物を入れる器のようにも思える。ボトルシップという、大きな瓶の中に船の模型を入れた美術品があるらしいが、それを初めて作った人は、瓶という容器の持つそんな魅力に魅せられたに違いない。
紙で作られた頼りない蓋を開けると、ゆらりとダークブラウンの水面が揺れた。口を付けると、瓶の固くひんやりとした感触が、じわりと伝わってくる。傾けると甘味が舌の上で溶けていき、そのまま2口ほど飲んで、ふぅっと息を吐いた。
「ほへ〜」
「ぷいにゅ〜」
そのタイミングが3人一緒だったので、思わず吹き出してしまう。アリア社長が目を細め、灯里さんも楽しそうに歯を見せて笑った。
時の流れを忘れてしまうかのような、和やかな時間。そんな穏やかな空気に包まれながら、灯里さんは窓の外に広がる、すっかり濃紺に染まった空のキャンパスをちらりと見やる。