ARIA 連作短編夢
□Navigation.7 ヘマタイト
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甘酸っぱい気持ちを噛みしめて幸せな気分に浸っていると、自然に笑顔がこぼれてくる。けれど過去から現在へと記憶を辿っていく内に、もやのようなものが胸の中に立ちこめ始めていた。
最近の凪さんは、アイちゃんにつきっきりだ。
とは言っても、特段おかしなことではない。自分も半人前の頃は色々と良くしてもらっていた。制服は汚れてないかとか、ゴンドラの調子はどうかとか、そんなことから始まり、マンホームにいた頃の思い出話に至るまで、とにかく色々な話をしたものだ。
凪さんなりの、頑張っている半人前に対しての応援や気遣いだなんてことは、とっくの昔に理解している。私のことも気に掛けてくれないことは無いし、本当なら思い悩むことなんてない。でも最近は、何だか会話が減っている気がして仕方がない。こちらが意識して話題を振らないと、あまり話が続かないのだ。対して、アイちゃんにはそんなことはない。以前と変わりなく、楽しそうに談笑している光景を見掛ける。
何か、気に障ることしちゃったのかな――?
心当たりはない。でも、知らず知らずのうちに何かしてしまった可能性というのはある。不安で、いつの間にか緩んでいた頬の筋肉は強ばっていた。胸のもやもやは、最近溜まりっぱなしだ。深呼吸をしたら、このもやもやも吐き出してしえるだろうか。試してみようと、これでもかという程息を吸い込む。
「喰らえ、ダブルもみあげ落としーッ!!」
息を吐き出そうとお腹に力を込めた瞬間、リボンで結んだサイドの髪がぐいっと引っ張られた。溜め息になるはずだった息は、驚きのあまり全てを絶叫に変えて喉から飛び出していく。
「は、はひ――――ッ!!」
目を開けると、両手で耳を塞いだ暁さんが眉間に深いしわを刻み込んで立っていた。
「う、うるせーぞー、もみ子!!」
「あ、あああ暁さん、びっくりしたじゃないですか!」
「ふんっ! もみ子のくせにたるんでいるからだ!」