よろずジャンル
□嗚呼、虚ろ気な日々
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「もう、しゃんとしてください」
私は足早にマスターの室内用の上着を持って来て、だらしなくこたつの上にのし掛かっている猫背に掛けてやる。
納得、出来るけれどーーだらけた結果、体を壊したらどうするのだろうかと、最近はよく考えてしまう。
今はこうやって私が面倒見てあげられるから良いけれど、別に私が来てからぐうたら具合に拍車が掛かった訳でもない。逆に、乱れきった生活習慣はかなり改善されたと断言出来る。特に、食生活。
こたつの上に上半身を乗り出して、マスターの顔を覗き込む。
食が細いくせに夜食が大好きで、自炊はほとんどせずーー出来るのかすら怪しいーー食べるものはコンビニやスーパーで買ったお弁当やお総菜、インスタントの製品ばかり。そんなだったから、出会ったばかりの頃は頬も少しふっくらしていたけれど、私が炊事を担当するようになった今では余分な肉はすっかり落ちて随分シャープな輪郭になった。
そこまで考えて、もう、私は家事手伝いアンドロイドじゃないんだからと、内心で愚痴を漏らす。
忙しいマスターは、私のことはあまり構ってくれない。ぐうたらしている時間の合間に、気まぐれでたまに歌わせてくれるだけだ。
既存の曲の耳コピーしたものだったり、アレンジしたものだったり、たまにオリジナルもあるけれど、そういったマスターと私の努力の結晶が日の目を浴びることはない。評価される以前の問題で、マスターは歌をインターネットや動画サイトに公開することが一切無いのだ。