よろずジャンル
□嗚呼、虚ろ気な日々
3ページ/5ページ
とは言っても、別にそのことについて大きな不満を感じている訳ではない。ボーカロイドとして幸せなのかは分からないけれど、マスターが音楽好きなことはCDやオーディオ機器で溢れている部屋を見れば容易に感じ取れる。
ネットで華々しく活躍する仲間たちに嫉妬や羨望の感情が湧かないこともないが、購入されただけで機能を持て余されている仲間も居ると思うと、そんなのよりはずっとマシだと思う。
ぐうたらマスターの面倒を見るのは大変なのだけれど、大きな不満は無いのだ。でも最近は、どうにも物足りない。満たされない。そんな感情を抱くようになっていた。
最初は歌わせてもらう時間が少ないせいだと思っていた。でも次第に、その答えに違和感を感じるようになった。
次は、自分達の努力が日の目を浴びることが無いせいだと思った。でもそれも違うのではないかと、ここ数日考えるようになっていた。
ーーでは、一体この不足感は何なのか?
思考の海に意識を沈めようとすると、不意にマスターの首が動いて、腕に押しつけられて赤くなった額が見えた。上着のしわがくっきりと付いてしまっている。
いつの間にか開かれていた瞼から覗く、気だるげな瞳と目が合ってどきりと鼓動が跳ね上がった。
マスターは何も喋らない。起き上がってベッドに行く様子もない。目尻を下げ、嬉しそうに微笑んでいるだけだった。小さな子供が、道端で摘んだ綺麗な花を母親にプレゼントしたような、幸せそうで、それでいてどこか誇らしげな表情で。