ARIA 夢小説
□2人きりのティータイム
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――アテナさんに、告白?
甘美な響きに一瞬心惑わされそうになるが、いやいやと自分を持ち直した。そんな勇気は、残念ながらまだ無かった。
大人の雰囲気を纏いながら、無垢な子供の心を持つアテナさん。恋愛感情を知っているかすら危ういこの女性に恋心をぶつけようとするには、まだ自分は未熟すぎる。
どうしたら、彼女と釣り合う男になれるだろうか。知らず思考の海に沈んでいると、歌声が現実へと呼び戻しに来た。いつの間にかカップに注がれていた視線を上げると、アテナさんが窓の外を見つめながらカンツォーネを紡いでいた。
歌声は心の深いところに染み渡り、あらゆる感情をさらっていく。夢中になってカンツォーネを聴いていると、不意にアテナさんと目が合った。まるで母親が小さな子供をあやすような、優しい微笑み。そして、カンツォーネの最後の音が、潮騒に溶けた。
「……悩み事?」
微笑んだまま、アテナさんが問い掛けてきた。そこで、アテナさんに気を遣わせてしまったことに気が付く。
オレは自分のことしか考えてなかったのに、アテナさんはオレのことを思って歌ってくれた。やっぱり、この人に想いを打ち明けるには、オレはまだまだ包容力とか、とにかくそんな大人の要素が足りないようだ。
「いいえ……。あの、アテナさん」
でも、少しだけ、我が儘が許されるのなら。
「なに?」
「また、お茶飲みに来てくれますか? オレ、アテナさんにお茶を飲んでもらうの、好きみたいだから」
「本当?」
心底嬉しい、といった様子で目を輝かせる。嘘な訳がない。一緒にお茶をするくらいでこの笑顔を見れるなら、贅沢なくらいだ。
「はい。待ってますよ」
「ありがとう。私も貴方のお茶を飲むのが好きなの。歌を聴いてもらうのも」
今、オレはきっとアテナさんに負けないくらいの良い笑顔を作れているはずだ。それからしばらく、2人っきりの楽しい時間が続いた。
「あ……いけない。そろそろ仕事に戻らないと」
ふと時計に視線をやったアテナさんが、躊躇いがちに呟いた。時刻は4時を回っていた。そう長く話していた訳ではないが、この後予約でも入っているのだろう。
見送りに、アテナさんのゴンドラの側まで歩く。プリマの証である白塗りのゴンドラに乗り込んで、水の3大妖精のひとりと讃えられる女性はこちらに向かってお辞儀をした。
「今日はありがとう。名残惜しいけど……またね」
「お仕事、頑張ってください」
アテナさんがオールを操ると、ゴンドラはあっと言う間に波に乗り、彼女の意のままに水上を滑るように進み始めた。その優雅さは、まさに《水の精(ウンディーネ)》を彷彿とさせる。ナンバーワンプリマと名高いアリシアさんとはまた違った魅力に、ほうっとため息が出た。
腕全体を使って大きく手を振ると、ひらひらと掌を振り返してくれる。オレはアテナさんのゴンドラが見えなくなるまで、桟橋に立っていた。
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