ARIA 夢小説
□ヨルノヒカリ
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お茶煎れてくるよ、と凪さんが立ち上がる。自分でやりますと腰を浮かせたが、片手で制されてしまった。私はすることもなく、目の前にある凪さんのノートパソコンの外観を観察した。
私の使っている物とメーカーは同じだが、ひとつ型が旧い。しかし丁寧に扱っているのが傍目に分かるくらい、綺麗で傷が少なかった。男の人はやっぱり機械が好きなんだなぁと感心してしまう。
ほどなくして、ハーブティーの匂いが漂ってきた。心が更に落ち着いてくるのを感じて、目を閉じ、お腹の中に溜まった嫌なものを全部吐き出す勢いで、はぁーっと深く息を吐いた。コトリとカップがテーブルに置かれるような音がして瞼を開くと、心配そうに私を見つめる凪さんが映った。
「大丈夫……な訳ないか」
すっと手が伸ばされた。私やアリシアさんよりずっと大きな手が髪に触れて、頭を撫でられる。心地良くなって、私はまた瞳を閉じた。
ぽんぽん、と数回掌が頭を叩いて、髪に触れていた手が離れた。
「――……あっ、やっ」
温もりが無くなったことに恐怖を感じて、反射的に凪さんの手を掴んでしまった。驚いたような凪さんの表情を見て、かぁっと頬が熱くなる。
「ご、ごめんなさい」
慌てて手を離して、自分の両手を膝に押し付けた。こんなにも弱っている自分は、アクアに来てから、まだ誰にも見せていない。恥ずかしさと後悔が胸一杯に渦巻き、たまらず俯いてしまう。
凪さんが私の名前を呼んだが、俯いたまま返事をした。溜め息を吐いたような音が聞こえ、びくりと肩が震える。呆れられてしまっただろうか。
沈黙が訪れる。短くも長くも感じるそれを打ち破ったのは、やはり凪さんだった。
「灯里ちゃん、目を瞑ってくれる?」
「……はい」
突然のお願いに面食らう。意図は分からなかったが、疑問を口に出すことはせず瞼を下ろした。「目、瞑った?」という問い掛けに「はい」と返事をすると、首筋に空気の流れを感じた。うなじの辺りで、肌には触れず一定の距離を保ちながら、何かが動いている気配がする。
その何かが凪さんの腕だと思い至った瞬間、さっと首許の気配が無くなった。腕が引かれたのだろう。
「目、開けて良いよ」
言われてゆっくりと瞼を上げると、凪さんと目が合った。一体何だったんだろうと、しばらく凪さんの目を見つめていると、ふと凪さんの視線が下に下がった。つられて視線を追ってみると、胸元に見慣れない輝きがあって目を見開いた。
それに手を伸ばして触れてみる。三角形のシルバーのペンダントトップに、深い緑をした石が嵌め込まれていた。驚きのあまり、トップを指で挟んだり裏返したりしてしげしげと観察してしまう。
「えーと、それはね……」
言いにくそうに呟いた凪さんの声に、反射的に顔を上げる。凪さんの頬はかすかに赤く染まっていた。
「マラカイトっていう石のお守りなんだ。昔、マンホームの中世イタリアでは、その石を魔除けに使っていたらしいよ」
「魔除け……」
「唐辛子とか動物の角のモチーフなんかも魔除けとして有名らしいけど、女の子が身に着けるとしらそれかなって。ホラ、灯里ちゃんがまた、危ない目に遭わないようにさ……。気休めかもしれないけど、無いよりはマシかなって、思ったんだけど……」