ARIA 夢小説
□微妙な距離
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「よし、じゃあ、何処か行くか」
酒瓶の中身も半分くらい残っているというのに、珍しいことに晃さんが立ち上がった。
「え、何処にです?」
「言っただろ? 何処か」
まるで遊びに出掛ける子供のように無邪気に、晃さんが笑う。
「何処かって……」
眉をひそめてみても晃さんは気にもとめず、長い髪を颯爽と翻してこちらに背を向け、気合いたっぷりに右手を振り上げる。
「適当にブラついてりゃ何か面白いことあるだろー。さ、行くぞ舎弟!」
突っ込む気力も惜しいので、黙って晃さんに付いていくことにしよう。喧嘩になると厄介なので人があまり居ないところが良いなぁ。そんなことを考えていると、思いが通じたのか、晃さんは人目が少ない路地を通り、倉庫街へと入っていく。チンピラがたむろっていそうなイメージがあったが、誰ともすれ違わない。晃さんは黙って早足で先に進んでいく。何処へ行きたいのかは分からなかったが、このまま進めば海に面した通りに出るはずだった。
ぼんやりと青白く空を染め上げる月は、夜明けまであと2、3時間だと教えてくれている。日の出を見るにはまだ早い。晃さんの意図が分からぬまま、俺達は水平線と出会った。
「んー。潮風が気持ち良いなー」
うーんと伸びをする晃さん。酒で体に篭もった熱を冷ましたかったのだろうか。オレは近くにあったベンチに腰掛けて、穏やかに波打つ海を見つめた。
「ここに何しに来たんですか?」
「別に何もないよ。なんとなくさ」
「これから何処に行くんですか?」
「良い眺めだし、椅子もあるし、ここで寝よっかなー」
おいおい、と軽く嘆息した。大人しくしてくれるのはありがたいが、こんな何もないところでオレはどうやって時間を潰せば良いのか。物取りに遭う可能性があるから、まさか2人で寝こけるわけにもいかない。
「毛布もないし、風が強いから、風邪引きますよ」
「お前が上着貸してくれりゃー良いんじゃん」
「オレが風邪引くから嫌です」