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□ふかいところできみと接骨
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※ユーリさんが若干性格悪いです。


「貴方は、貴族が嫌いなんですか」

後ろから投げ掛けられたその言葉に立ち止まり振り返ればとても微妙な顔をしながら一人の男が立っていた。俺とは正反対の眩しいくらいに輝く金色の髪、幼馴染のあいつよりも明るい色かもしれない。そして夕焼けにも似た温かな瞳。嫌味と言う訳ではないけれど、正に国王と言う位に相応しい男だと思う。そして同時に俺とは尤も遠い男だとも。それに今男が俺に問い掛けてきた事は強ち外れてはいない。俺は散々お偉い貴族サマ達が好き勝手をして町の人間を苦しめている所を目にしてきたし自分自身その苦しめられた中の一人だった。だから「ああそうだよ」と肯定する。男はあっさりとそう言った俺に面を喰らったらしく何度も瞬きをして呆然として、少し悲しそうな、寂しそうな瞳で、「そうですか」と呟いた。どこからそんな事を知ったのかはしらないけれど聞いたのは男の方なのだからそんな反応をされても謝ろうとは思わない。ショックを受けるくらいなら初めからこんな事聞いてこなかったら良かっただけの話なのだから。ああ、自分でも分かるくらいにこいつに対して刺々しくなってしまうのは俺が未だ未熟な証拠なのだろうか。こいつは貴族だけど(てか国王だけど)、俺の知っている胸糞悪い連中とは違うと言う事くらい分かってる、頭では理解してる。でもどうしても俺の中では貴族に良いも悪いもないくらいに嫌悪の対象になってしまっているのだ。世の中には割り切れないものがある、俺の場合はこれなのだろう。何とも言えない沈黙が続き、俺はその空気が少し煩わしく感じて「用はそれだけか?じゃあ俺行くから」と背を向ける。こいつには悪いけれど今は一緒にいたくなかった。きっと自制心を抑えきれていない今の俺は何を言ってもこいつを傷付けてしまうだろう。だから離れた方が良い。こいつは何も悪くないのだから俺の勝手な感情で苦しむ必要なんて無いし、そうなればこっちだって目覚めが悪い。それに折角仲間と言う立場で出会えたのだからこの関係をつまらない事で壊したくなんて無いしな。

歩き出そうとした矢先、ぱしんと腕を掴まれた。思ったよりも強い力に振り払う事が出来ずその分これ以上構うなと言う意味を込めて思い切り睨みつけてやれば少し怯んだ様に体を震わせたけれど、頑固としてその手を離す事は無い。威圧とかそう言う部類のものには慣れているのかもしれない。確かにこいつは一国の王かもしれないけれどまだたったの19歳と言う子供だ、そんな奴が頂点に君臨する事を良く思わない奴は少なくないだろうからな。こいつを輝かしい舞台から引き摺り下ろそうとあの手この手でこいつを追い詰めていることだろう。それを全て背負ってこいつは王である自分を守っているのだから俺如きが睨みを効かせたところで何ともないとしても不思議じゃない。そんな立派なこいつが何故ここまで俺みたいな日蔭者に突っ掛かってくるのか分からない。放っておけば良い、自分言うのもあれだけど俺と関わって良い事があるとは思えない。それともそれを分かってる上で何も問題を起こすなと忠告でもしに来たのだろうか。もちろんこいつ位の身分ともなれば身の安全を確保するのも当然なのだろう。いくら俺でも貴族だからと言って誰かれ構わず斬りかかったりしないのに、内心でそう呟いて唇を噛み締めて何か言いたげにしている男を視界に映す。なあ、あんた、何がしたいんだ?俺に何を求めてるんだ?きっと俺はあんたの望みを叶えてはやれないけれど、聞いてやる事くらいは出来る。ああもしかして本当に俺が貴族は嫌いって肯定したのにショックを受けているのか?それでそんなにも泣きそうな顔になっているのか?王たるものそれくらいの事で感情を露わにしてどうするんだ、こんな、知り合って日も浅い人間に何と思われても別に良いじゃねえか。あんたには尊敬してくれる部下だって市民だってたくさんいる、あんたを大切にしてくれる仲間だっているんだ、それで良いだろう?

俺の腕を掴む男の手が小刻みに震えている。何でだ、分からない。本当に俺には貴族と言う奴が理解出来ない。いや、これはきっとそう言う問題では無いんだろうな。俺はこいつと言う人間が理解出来ないんだ。余りにも辿ってきた道が違い過ぎて、考え方も性格も何もかもが違うくて、関わったことの無いタイプで、どうしたら良いのか分からない。だから貴族と言う少ないこいつの情報から態度が冷たくなってしまう。他にどうやって接したらいいのか俺には浮かばないから。いつもの様に適当に付き合えば良かっただけなのにどうして俺はそうしなかったのだろうな。いくら考えたってその疑問に答えが出る事は無い。じわじわと、男の決して高くない体温が伝わってくる。何を言うのでもなく、手を離すでも無く、ただじっと、俺を見つめる二つの瞳。それに何故か少し罪悪感の様なものを感じ離す様に促そうとした時、不意に男が口を開いた。そして予想もしていなかった言葉を口にする。

「友情の誓いを、僕としましょう」

ゆ…、う、何だって?こいつは今、何をしようと言った?俺の聞き間違いでなければこいつは今とんでもなく恥ずかしい台詞を吐いたのではないか?今時そんな事子供だって言わないだろう。少なくても俺は子供の時そんな事言ったりしなかった。なんて恥ずかしい奴だろう、貴族ってのはこういう所も一般人とずれているのだろうか。でも確かにあの手の掛かるお姫さまが聞けばとっても素敵です!とか言って喜びそうではある、とても容易に想像出来る。でも残念ながら俺は一般市民だからその素敵な台詞も何言ってるんだこいつとしか思えない。てゆーか何だその誓いは。生まれてこの方、見た事も聞いた事も無い。「何だよそれ」と聞いてみれば何処か嬉しそうに微笑んだ。こいつ曰く、その友情の誓いとやらは木に名前を彫ってその前で手を合わせてずっと友達である事を誓うことらしい。その説明を聞いてますます分からなくなる。…どうして、俺と?自分を少なからず嫌悪しているだろう相手と普通そんな事をしたいと思わないだろうに。そんな俺の心を読んだかのように残念そうに腕を離して「すみません」と小さく謝ってきた。全く変なところで謙虚な奴だ、こんな所を見ていると国王らしさなんて全然見受けられないな。あ、勘違いするなよ、今のは良い意味であってさっきまでみたいに嫌味を込めた訳じゃない。

自分と男を改めて見比べる。やっぱり何もかもが違う、こいつの事そんなに詳しくは知らないけれど俺とは違う人間だと言うのは良く分かる。そして俺はやっぱり貴族を好きになれそうにない。それでもまだ俺がこいつを気に掛けてしまうのは何故だろう。自慢じゃないが俺は好かない奴に合わせるほどの自分が社交性を持ち合わせているとは思わない。だからこそ謎だ。あっちが謝罪までしているのだからそれに満足してさっさとここを離れてこの不可思議な出来事を忘れてしまう事だって出来たのにどうして俺はそれを選ばずこうしてまだここにいるのだろうか。その理由を知るのは、悪い事ではないかもしれない。

「その友情の誓いとやら、どの木でやるんだよ」

「…え、あの」

「俺はあんたの事、貴族としかまだ知らない。だからハッキリ言ってあんたにあまり良い印象を持っていない。でも、だからこそこの誓いを立てて友達としてのあんたがどんな奴なのか見せて貰うよ」

それでも良いなら、友情と言う名にしてはあまりにも綺麗では無い理由だけれどそれでも良いのなら、俺はあんたとその誓いをしてみたい。早口に、それでもちゃんと意味が伝わるスピードで一気に言葉を紡げば、「ありがとうございます」と今まで見せた事が無いくらいの明るく嬉しそうな笑顔を見せた。何だ、そんな風に無邪気に笑う事もあるのか。それさえも知らなかったよ。「行きましょう」その言葉に頷けば当たり前のように握られる手。今度は腕では無く、しっかりと俺の手を握っている。でも自然と嫌な気はしなかった。さっきまでよりも温かく感じる男の体温をゆっくり感じながら俺はその手に引かれて歩き出した。

ふかいところできみと接骨

彼が貴族嫌いだと人伝に聞いた時眩暈がした。そしてとても恐ろしくなった、自分も彼に嫌われているのかもしれないと。いてもたってもいられなくて、今まで数回しか会話をしていないにも関わらず勢いだけで彼に話しかけてしまった。僕の問いに答える彼。当然の様に肯定の答えが返ってきた。立ち去ろうとする彼を見て体が勝手に反応した。鋭い視線を突き付けられて思わず手を離してしまいそうになったけれどここで彼を離せば二度と僕を見てくれない気がしてぐっと堪える。大丈夫、彼は確かに睨んではいるけれどまだ何処かに優しさと温かさを持ってくれている。僕はそれを一切含まない権力に捕らわれた獣の様な瞳をたくさん知っている、それに比べれば耐えられる。でも、こんな事をしている僕はきっと彼に嫌われているだろうな。そう考えると恐ろしくて嫌でしょうがなくてがたがたと手が震えてしまう。

嫌だ、嫌だ。彼の持つ本当の強さに惹かれた。力だけでは無い、全てを守れる本当の強さ。僕が求め続けたもの。だから僕にとって彼は直ぐに憧れの人となった。敬愛、なのかもしれない。そんな人に嫌われるなんて心がどうにかなってしまいそうで、破裂寸前の頭で不意に脳裏に浮かんだのは僕の大切な親友たちとしたあの誓い。花畑にある、大きな木の下で三人でした、永遠の誓い。駄目元でそれに掛けた、僕に言える事はそれしかなかったから。すると彼は意外にも友情の誓いに興味を示してくれた。それだけでとても嬉しくて幸せな気持ちになる。一頻り説明をして、僕は彼にとってこの願いは迷惑以外の何者でも無いのではと思った。貴族が嫌いな彼が、貴族である僕から友達になろうと言われて嬉しいと思うだろうか?答えは否だ。慌ててすみませんと謝罪をして掴んでいた腕を離す。じっと突き刺さるような視線が痛い。敵視される事に慣れているとは言ってもそれが平気な訳じゃない、自分にとって大切な人からなら、尚更。

これ以上彼に不愉快な思いをさせてしまうならその前にもう一度謝って離れてしまった方が良いのかもしれない、そう思った時、予想外の言葉が耳に届いた。誓いはどこでやるのかと、確かに彼は僕にそう聞いたのだ。あまりにも驚いて上手く言葉が紡げない僕に彼は淡々と自分の本当の気持ちを話してくれた、そしてその上で僕と誓いをしてくれると、そう言った。貴族である僕では無くて友としての僕を見てくれる、それが嬉しくて嬉しくて僕はありがとうございますと礼を言う。なんて幸せなのだろう。そしてそのまま自分の気持ちのまま彼の手を握った。嫌がられるかもしれない、少しそう思ったけれどその手が振り払われる事は無く僕が歩き出したのと同時に彼も歩き始める。伝わってくる体温が温かい。嗚呼どうか、僕と彼の誓いが叶いますように。






thanks! 人魚


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