□貴方色の雨
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ああ、今日も雨。
昨日も一昨日もその前も雨だった気がする。
雨、雨、雨、雨!もう俺サマ嫌になるっ。


「随分不機嫌そうだな。お嬢さん」


「お嬢さん言うなっ、くるくる野郎!」


自分の後ろで笑っている男をじとりと睨めつける。
全く堪えていないところが今日は何だかすごくムカつく。
あ、ちなみにくるくる野郎ってのは俺サマが考えたユーリのあだ名。
戦闘中でも戦闘後でも何かしらを回してるこいつにはそれでいいと思う。


何だよそれ、という言葉と共にユーリの手が俺の腰にまわされる。


「…で、何が気に食わないんだ?」


何だかすごく子供扱いされてる気がする。
俺サマの方が大人だって言うのに!
でも離れようと思っても、ベッドに座って後ろから抱きしめられてる状況では俺サマの方がずっと不利で諦めざるを得ない。
はあ、と一度溜息をして顔の横にあったユーリの髪を触る。


「うっとおしいの。このじめじめした感じとか、何とも言えないむず痒さが!」


「そんなことか、仕方ねえだろ?梅雨なんだし」


「そうだけどさ…」


ああ何か俺サマすごい子供っぽくない?
どうにも出来ないことなのに、それを人(しかも年下のこいつに)に八つ当たりして。
意識すればするほど自分が恥ずかしくなる。


「俺は梅雨好きだけどなあ」


「…何でよ?」


「何というか静かだし落ち着く。それに、」


そこでいきなり体を前に向けさせられ、ユーリと向い合せになったかと思うとそのまま抱きしめられる。
意味がわからずユーリを見ればしてやったといわんばかりの楽しげな表情。


「不機嫌なゼロスも、すごい可愛い」


「〜〜〜っ。うるさい!」


ああこの男は何てことを普通に言うんだ!
人の反応見て面白がりやがってっ。
くそ!赤くなるな俺サマの顔…!!


「髪、いつもよりしっとりしてるな」


ゆっくりとユーリが頭を撫でてくる。
それに驚いていると、実に楽しそうに俺サマの毛先をくるくるといじり始めた。
やっぱりこいつなんかくるくる野郎で十分だ…!!


「なあ、ゼロス。梅雨が好きになる方法教えてやるよ」


「へ?」


思ってもいなかった言葉に、我ながらまぬけな声が出た。
これ以上馬鹿にされるのは俺サマのプライドが許さないから、必死に平然を装ってみる。
きっと声は聞えただろうから意味ないだろうけど。


「今回のことに限らず、嫌いなものを好きになるにはその状況が大事なんだ」


「状況?」


「例えば今。こうやって俺と抱き合ってることはゼロスにとって良いことだろ?」


なにその自信…!?
どっから湧いてくる訳!?
そ、そりゃ嫌じゃないけどさ…。
いや、決して嬉しいとかそういうんじゃなくてただまあそんな必死に嫌がるほどじゃないという話でっ。
ああもう何言ってんの俺サマ。誰に弁解してんのよ…。


「そんな喜ぶなよ。んで、だからそういうこと。抱き合うってのはイコール俺と抱き合ったことだから好きってわけ」


「あのさ、好き嫌いどうこうの前に、抱き合う抱き合う連発すんの止めてくれない?俺サマすっごい恥ずかしいんですけど」


なんでこいつはこうなんだろう。
俺サマこいつといたら心臓持たない気がする。
それになんだそのめちゃくちゃな方式。
こいつ実はロイド君並みに単純なんじゃねえの?


ただでさえ梅雨のせいで空気がじめじめしてんのにこいつの話でますます熱くなりそう。
せめてどっちかにしてほしい。


「だから例だって言ったろ?まあ今のは本気で言ってたけど。んで、本題」


さらっとなんか言ったけどあえて無視しよう。
こいつの全部の言葉に反応してたら疲れるどころじゃないし?


「梅雨を好きになるには、梅雨になにか好きなことをしたらいいってことだ」


「俺サマの好きなこと…?」


いざそう言われるとなかなかでてこない。
女の子とのお喋りも、真面目な奴からかうのも、メロン食べるのも、どれも好きだ。
でもなんかピンとこないんだよなあ…。


「何考え込んでるんだよ。お前の好きなのは俺だろ。だから一緒にいればいい」


そう言って俺サマの腰にまわしていた手を頭の後ろにもっていき、ぐいっと俺サマの頭を押した。
その結果どうなるかなんて誰でも分かる。
突然のキスに反応が遅くなって、唇が離れた後もぽかんとしてしまう。


「梅雨になると俺とのキスを思いだす。それはなかなかいいんじゃねえの?」


「〜〜〜〜〜っ!」


本当に年下なのかと思うほどの大人の笑いかたでそう言ってくる姿は不覚にもかっこいいと思ってしまうもので。
しかも心のどこかでいいかもしれないと思ってしまう自分がいることにすごく驚く。
もしかして、俺サマ自身が気付かなかっただけで実はかなり惚れてるのかもしれない。


「ほら」


固まった俺サマに微笑み、瞼の上にキスを落とす。
ユーリに触れられたところが何だかすごく熱く感じる。
違う。違うでしょ。これは、そう湿気だ!
梅雨だから仕方ないことで!別にこいつが何したからとか関係なくて!
そうだこの心臓の不規則な動きも、じわじわと体が火照るのも、やたらとユーリがかっこよく見えるのも全部全部梅雨のせい!


「お、俺サマやっぱり梅雨嫌いっ!」



(絶対に言わないからな)


(梅雨が好きかもしれないなんて!)







「……何だよそのてるてる坊主の山」


「早く梅雨終わらせるために作ってんの!邪魔すんな!」


(こいつほんとに可愛いな…)


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