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□歯車が回りだす
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しっかりと掴まれた腕は、暴れても解放されることは無くて。
悔しさだけが積もっていく。
なんで俺サマがこんなやつに暴かれるんだよ。
そんなことありえない。あっちゃいけない。
だって今まで出会った人間でそんなこと出来た奴他にいないのに、なんでこいつなんかに分かったんだよ!
「お前を愛してるから」
いつだってこいつの答えはこれ。
愛してる?そんな嘘いらない。
気付くのは上手いくせに、嘘をつくのは下手だな。
(悪いけど、そんな口先だけの愛なんて聞き飽きたんだ)
「ゼロス、逃げるな」
逃げるなだと?
そんなこと出来ないに決まってる。
だってお前みたいに得体のしれない奴に本当を知られてしまったんだぜ?
近くにいたら危険なのは誰だって分かるだろ。
それに、俺の心臓が警告してる。
お前に近づいたら危険だと、早く逃げろと教えてくれてるんだ。
俺サマは自分しか信じない。
だから、
「どこまでも逃げてやるよ。俺サマはユーリなんかに捕まらないから」
ふん、と鼻で笑ってやる。
体を捕まえたって、俺サマの心まで捕まえられたわけじゃない。
ふーん、というユーリの声が聞こえたかと思うと勢いよくベッドに体を押さえつけられる。
あまりの力の強さに声をあげそうになるけど、そんなことをしたら余計にこいつを喜ばせるだけだと必死に耐える。
でもこの我慢にすら気付いてるのかくすりと笑うのが聞こえた。
ああ、本当にムカつく。
「俺から逃げないなら、離してやってもいいぜ?」
「は…冗談…っ!」
分かってる。ここで止めさせないともっと俺サマにとって悪い状況になることぐらい。
でも、言えるわけがない。
それは完全に俺サマの負けを意味してるのだから。
でもその判断が悪かった。
唇に何かが当たった。
何かなんて分かりきってる。
ユーリの唇、だ。
まさかキスしてくるとは思わなくて、体が震える。
でも俺サマにもプライドがあるから口を開けない。
そう、このまま耐えればいいんだ。
ペロリ、と唇を舐められる。
その何とも言えない感覚に背中がひんやりとする。
こいつが何をしたいのか分からない。
なんでキスまでする必要がある?
分からない。分からない。
「……ひゃっ!?」
急に襲った上半身の冷たさに声が出てしまう。
何事かと自分の体を見ると、ユーリの手が無遠慮に体を撫で回している。
わざと焦らす様な動きにぞくぞくする。
やばい、何か変だ。
くちゅり、と音がして俺サマの口内にユーリの舌が入ってきた。
気持ち悪いはずなのに、あまりそう思わない。
でも結局声をあげてしまった上にキスされてるこの状況が恥ずかしいのと悔しいのは変わらない。
「……言う気になったか?」
「…いや、だ」
もう、これはただの意地だ。
俺はあの日からずっと嘘を使って生きてきた。
それを会って間もないこいつに見透かされるなんて会ってはならないんだ(そう、思いこんでる)
だからここでこいつに落ちるわけにはいかない。
「しゃーねーなあ…」
「………っ」
だからいくら頑張ったって無駄だぜユーリ?
体を暴いても絶対に俺サマは屈しないから。
お前には、落ちたりしない。
(落ちてもいいなんて想ってるこの想いすら認めたりしない)
「子供かっての…」
目の前で少し目を腫らして眠っている男の頭をゆっくりと撫でる。
起きる気配はまるでない。
それはさっきまでの行為のせいもあるだろうし、今までのこいつの生き方のせいでもあるだろう。
誰にも心を許さないで、嘘で偽りながら生きてきたこいつ。
確かにそういう生き方も人それぞれでありだとは思う。
でもこいつの場合それが負担になりすぎていた。
だから、行動した。
腕を掴み逃げ道を塞ぎ認めざるを得なくした、いや、なくしたつもりだったのに。
だけどこいつは想像以上に手ごわくて結局こういうことをしてしまった。
(次に起きた時、こいつはどうするだろうか)
諦めて俺の胸に収まるか?
それとも、まだ逃げ続けるか?
こいつの場合きっと後者だろう。
それぐらいじゃないときっとここまでのことにはならなかった。
(まあ、でもどちらにしても同じことだな)
俺はもう、ゼロスを逃がさない。
これ以上傷つきながら生きていくゼロスを見るなんてごめんだから。
愛してる、ゼロス。
thanks! kitten