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□つまりは単純な話
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その日は俺とゼロス、二人だけの任務で内容もこの近辺に出てくる初級の魔物の退治で余裕だと思っていた。
でもいざそこに行くと俺達を待っていたのは初級どころかここらの主ともいえる魔物。
回復と魔法はゼロスに任せて俺は前衛で戦っていたけれど俺一人で抑えきれるほど甘くなくてすぐに俺達はピンチになった。
逃げた方がいいんじゃないか、そう言おう振り返った時、俺の瞳にオレンジのものが映る。
一瞬何か分からなかったけれどよく見るとそれはゼロスの背中から出ていて羽だと気がつく。
ゼロス、と呼べばいつもと同じ軽い笑顔を俺に見せてすっと主を見た。
そして響く低い声。


「ジャッジメント」


天から無数の光が下りてきて、断罪するかのように主に降り注ぐ。
その時のゼロスの姿は聖職者のようで。
全ての光が落ちてきた時そこにはもうあの主の姿は無かった。
俺はただ呆然とその様子を見ていたけど、どさりという音で我に返る。
振り向くとゼロスが息を荒くして膝をついていた。


どうやらさっきの技は体力とか精神をかなり消耗するらしい。
こんなゼロスを見ておきながらこんなことを思うのは不謹慎なのかもしれないけれど、はっきり言って俺はジャッチメントという技が嫌いかもしれない。
確かに威力もすさまじいし見た目も他の術や技に比べてもずっと綺麗だと思う。
でもどこかその技を使う時のゼロスは儚く感じるんだ。
消えてしまいそうで、ゼロスがゼロスじゃないみたいでどうしようもなく不安になる。
俺の杞憂なのかもしれない。それならそれでいい。
でももしほんとうにこれを使い続けてゼロスの身に何かあるのなら、二度と見たくないとまで思ってしまう。


それにあの羽。
まるで本物の天使のようで、嫌だ。
ゼロスが俺達と違うところに行ってしまいそうで、もう会えなくなってしまいそうで。
ああやっぱり俺はどこまでも臆病。
だからいざという時、役に立たない。
今だってそうだ。俺がもう少し頑張っていればゼロスがジャッジメントを使わなくても倒せたかもしれない。
俺は全部矛盾してるんだ。


この技は見たくない。ゼロスが苦しがるところを見たくない。
でも守れる力は無い。その上臆病。


「ゼロス、ごめんな…。その技使うの辛そうなのに…」


口からぽろぽろ謝罪の言葉が漏れていく。
これは本当に本心?
俺が傷つきたくないからでた自己防衛?
分からない、分からないんだ。


「ルーク、顔上げろよ」


本当は情けない表情をゼロスに見せたくなかったけれど、これ以上困らせるわけにはいかないので顔を上げる。
笑われるかと思っていたのに予想に反してゼロスは優しい目で俺を見ていた。
どきりとする。
その優しすぎる目がさっきの戦闘の時のゼロスと被る。
いや、どちらもゼロスだということには違いない。
でもやっぱり羽を背中に背負ったゼロスはいつもと違う気がする。


本物の天使みたいに消えてしまいそう。


「いやだ…!」


「……っルーク?」


気付いたらその体に飛び込んでいた。
ゼロスは疲れているのだからこんな些細なことでも負担になると分かっているのに体が言うことを聞かない。
まるでゼロスはどこにも行かせないとでもいうように体にしがみつく。
かっこ悪い。すごくかっこ悪い。
こんなのどこかの女の子がやることだ。
なんで俺、こんなに必死なんだろう。
俺が悪い方に考えるだけでゼロスはこうしてちゃんといるのに。
でも今は、ゼロスを感じていたい。


「ルーク…」


そう俺の名を呼ぶ声はやっぱりどこか儚くて。
俺は一層強くその体を抱きしめた。


無我夢中で抱きしめる俺の髪をゆっくりとゼロスが撫でる。
嫌がられると思っていた俺は少しそれに驚いたけど、その手があまりにも優しくて、目を瞑る。
とくん、という音。
心臓の音。
ゼロスが今ちゃんと生きているという何よりの証拠だ。
当たり前のことなのにすごく安心する。


ゼロスはここにいる。


あの技だってゼロスが生きているからこそ出せるもの。
そんなの当たり前。
誰だって分かる。
でも、その当たり前の事実がどうしようもなく嬉しい。


(そうだ、ゼロスがいるから全てが起きる)


技も羽もゼロスがいる証拠。
そう考えると嫌だと思わなくなるなんて俺はどれだけ単純なんだろう。


ああでももうなんでもいいよ。


ゼロスがここにいるのなら。









thanks! hazy


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